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社説・コラム

『潮流』 「証人」を守る責任

■論説主幹 宮崎智三

 新型肺炎の影響がじわり表れているのだろうか。本館の展示を一新した昨年春以降、入館者数が3割前後増えていた原爆資料館だが、2月に入って伸びが鈍っているそうだ。

 それでも前年同月に比べ1割足らずは増えているというから、被爆地広島の人を呼び込む力は侮れない。

 ただ楽観はできない。被爆者がいなくなる時代が近づいている。どうやって発信力を保ち続けるか、記憶を受け継いでいくか。避けて通れない課題である。

 頼りになる存在の一つが物言わぬ歴史の証人、被爆建物だろう。旧陸軍被服支廠(ししょう)を巡って大きな動きが続いている。

 4棟中3棟を所有する広島県が昨年末、「2棟解体、1棟の外観保存」案をまとめた。地震による倒壊の恐れや、巨額の耐震化費用が理由という。

 唐突だったため、反対・慎重意見が広がった。県がおととし示し、その後撤回した1棟と周辺を平和学習の場とする改修案に比べ、大幅に後退した感じもあった。解体方針は撤回していないが、県が着手を先送りしたのは当然だろう。

 被爆の惨状だけでなく、軍都廣島の証人でもある。国内最古級の鉄筋コンクリート造りという建築学的な価値もある。今後はオープンな論議を重ねて、幅広い賛同が得られる案がまとまることを期待したい。

 改善すべき点があるのは広島市も同じだろう。被爆建物について、登録制度を設け、所有者に保存を促してはいる。しかし80以上ある「証人」を全体として、どう保存・活用しようとするのかビジョンに乏しい。

 重要だと判断すれば「原爆遺跡」として国史跡指定を目指す。そのための有識者会議を設ける―。そんな長崎市の手法も参考にできよう。先頭に立って「証人」を守る責任は広島市にあるはずだ。なぜ、もう一歩踏み込めないのか。

(2020年2月22日朝刊掲載)

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