×

社説・コラム

『潮流』 命と安全を守るとは

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 アフリカ南部の国ナミビアが、核兵器禁止条約の批准手続きを終えて36カ国目の締約国になった。この条約ができてから約2年8カ月。効力を発する条件である「50カ国・地域」の達成へ、また一歩進んだ。

 核兵器を「国の安全保障に必要」と肯定する論理に対して、禁止条約は「人間の命と安全を脅かす非人道兵器」との考えに立つ。年内発効は、核兵器廃絶を求める市民共通の願いと言っていい。

 今年は、米ニューヨークの国連本部で5年ごとの核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれるはずの年である。互いに対立しながら核保有に固執する米国、ロシア、中国などを含めた190カ国の政府代表に、市民が誠実な核軍縮交渉を迫る機会になる。核兵器禁止への機運を高めることにもつながるはずだ。

 それだけに、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に広がるほど、命と健康を守ることが最優先、という思いと、やるせなさがない交ぜになる。4月開幕の会議は延期が確実で、被爆者、市民や高校生の現地派遣の中止決定が相次いでいる。

 軍備管理の専門家からは「会議の見通しは暗い。1年延期し、その間の米大統領選でトランプ政権が交代すれば多少は前向きな議論ができるかも」といった指摘も聞かれる。そう簡単ではないだろう。10年前の再検討会議を取材したが、「核兵器なき世界」を唱えたオバマ政権も、交渉姿勢は「核超大国」のごう慢さがにじんでいた。5年前の前回会議を決裂させた「張本人」でもある。

 年齢を重ねた被爆者にとって、1年は長い。待った末に失望、という結果に終わらせない責任が、特に核保有国や日本のような「核の傘」に頼る国にはある。「安全保障」を盾に巨費を投じられてきた兵器は、世界が手を取り合い、さまざまな脅威から人間の命を守ることに役立ってきたか。あらためて問いたい。

(2020年3月26日朝刊掲載)

年別アーカイブ