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社説・コラム

『美術散歩』 今の広島 一瞬の空気感

◎手嶋勇気個展「ひろしまスケッチ」 12日まで。広島市中区上八丁堀4の1、ギャラリーG

 画面を縦横無尽に走る線や点。何が描いてあるのかと向き合っていると、木や噴水の姿がぼんやりと浮かび上がる。広島市立大大学院出身の手嶋勇気さん(30)=広島市西区=が昨年から手掛けるシリーズ「AID」の10点が並ぶ。

 いずれも平和記念公園一帯の風景を捉える。描画アプリを起動したスマートフォンの画面上に指を走らせ、1~5分でスケッチ。プロジェクターでキャンバスに投影し、油彩でなぞるように描く。作為を排したスケッチに基づく作画は、一瞬の空気感を切り取るとともに、普段は顕在化しない作家の内面を表すかのようだ。

 かつては写実的な作品に取り組んでいた。しかし「モチーフの具体的な形を追うほど、重たい画面になっていく気がした」。軽やかさを求め、現在の画法にたどり付いた。

 戦後、復興していく広島を描いた画家のスケッチに触れ、今の広島を伝えたいと本シリーズを始めた。平和記念公園を描くが「固定化したイメージで捉えず、多様な解釈をしてほしい」と話す。会場にもモチーフの説明はない。一見何げない風景が、静かに迫ってくる。(福田彩乃)

(2020年7月3日朝刊掲載)

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