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社説・コラム

『記者縦横』 島の戦争遺構 研究期待

■呉支社 仁科裕成

 呉市倉橋町の桂浜近くの桟橋から、チャーター船に乗せてもらった。沖へ出て鹿島大橋の下をくぐり、進むこと約20分。倉橋島の東端にある旧海軍施設の遺構「亀ケ首試射場跡」に到着した。

 海からはこんもりした森にしか見えなかったが、茂みをかき分けて進むと、計測機器があったとされるコンクリート製のアーチ形屋根の建物などが突如現れた。劣化が進んでいるが、たたずまいに圧倒された。

 試射場は、呉海軍工廠(こうしょう)の施設の一つ。戦艦大和に搭載された主砲の性能テストも行われた場所として知られる。現場で見つけた小さな丘は、発射実験の衝撃を防ぐ土手だったという。「戦争を知る手掛かりがまだある」と実感した。

 ことし6月には、呉市や神奈川県横須賀市など旧軍港4市で認定されている日本遺産「日本近代化の躍動を体感できるまち」の構成文化財に加わった。地元では観光振興への活用に期待が高まるが、施設はいまだに多くが秘密のベールに包まれたままだ。

 火災や射撃実験時の暴発などで工員が亡くなった悲劇が伝わるが、犠牲者の数など、正確なことは分かっていない。「くらはし観光ボランティアガイドの会」の柳井敏弘会長(79)によると、高度な軍事機密だったため、史料がほとんど確認されていないという。

 まもなく終戦から75年の節目を迎える。島に残る戦争の「証人」にさらなる注目が集まり、研究が進展することを期待したい。

(2020年7月31日朝刊掲載)

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