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社説・コラム

社説 米中対立の激化 報復合戦 断ち切るには

 米国と中国の対立が激化する一方だ。貿易摩擦は泥沼化し、互いに相手国の総領事館を閉鎖し合うまでに至った。両国の関係は、1979年の国交樹立以来最悪と評されるほどである。

 国際社会の安定には、両大国の協調が欠かせない。対立がこれ以上エスカレートすれば、コロナ禍で疲弊している世界経済にも深刻な影響を及ぼす恐れがある。双方とも大国としての責任を自覚し、報復合戦に歯止めをかけるべきだ。

 米国は、テキサス州ヒューストンの中国総領事館が「スパイ活動や知的財産窃盗の拠点」になっていたとし、閉鎖させた。中国も対抗し、四川省成都にある米国総領事館を閉鎖。「内政干渉した」などの理由からだ。

 在外公館を互いに閉じさせるのは外交の断絶にもつながりかねない。異例の事態といえる。

 先鋭化の背景には、新型コロナウイルスや香港問題を巡り、トランプ米政権が対中強硬路線を加速させていることがある。

 11月に迫る米大統領選での劣勢が伝えられる中で、中国への揺さぶりを強めることで、国内の支持固めを図ろうとする思惑があるのだろう。

 選挙戦略が絡むだけに、中国たたきを強める姿勢には危うさがつきまとう。ポンペオ国務長官がカリフォルニア州で行った演説にも見て取れる。

 中国の習近平国家主席を名指しし、「全体主義の信奉者」と非難した。その上で「自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国がわれわれを変える」と警戒感を示し、対抗するため自由主義諸国による新たな同盟を構築する必要性を訴えた。

 ただ中国共産党への敵意をむき出しにし、いきなり体制の転換を迫る発言はあまりにも乱暴すぎるのではないか。米国内でも株式相場の下落を招くなど、度を超した強硬姿勢に対しては懸念が強い。

 中国が権益を主張する南シナ海では、両国が軍事演習を行い、緊張が高まっている。偶発的な衝突も起こりかねない。

 もちろん問題は、強権的な中国の振る舞いにある。香港の自由を形骸化し、チベットや新疆では少数民族の人権を抑圧し続けている。

 覇権主義的な中国の海洋進出も目に余る。南シナ海では軍事拠点化を加速させ、東南アジアなど関係国の警戒感は強い。沖縄県・尖閣諸島の周辺海域でも中国公船がきのうまで108日連続で出没し、日本への挑発を強める。

 新型コロナウイルスの対応を巡り、欧米各国から厳しい目を向けられているにもかかわらず、中国はコロナ禍の混乱に乗じて自国利益を優先させる姿勢をあらわにしている。

 英国など欧州各国でも対中国戦略を見直す動きが出ている。米国が「新たな同盟」構築に乗り出したのも無理はない。各国が結束して中国と向き合い、国際社会で責任ある行動を取るよう促していくことは必要だ。

 ただ冷戦時代をほうふつとさせるような力による封じ込め策では展望は開けまい。対話を通じて、協調による共存の道を探り続けなければならない。

 日本は米国と同盟関係にあり、中国とも経済面での結びつきが強い。両国の関係が改善すれば日本の利益も大きい。果たすべき役割はある。

(2020年7月31日朝刊掲載)

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