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犠牲と焦土「記憶」刻む 福山の小林さん 被服支廠テーマに抽象画 三次で平和展 保存願い込め制作

 広島市内最大級の被爆建物である旧陸軍被服支廠(ししょう)(南区)をテーマに描いた油彩の抽象画が、三次市三良坂町の三良坂平和美術館で開催中の「平和展」で展示されている。保存か解体かの議論に揺れる巨大建造物が放つ強烈なメッセージを受け止めた福山市の画家小林福恵さん(68)が、キャンバスに刻み付けるように描いた力作だ。

 「地の記憶(8・6)」と題した油彩画は縦横1メートル16センチ。れんがを思わせる赤銅色を基調に、炎熱の中にうごめき、消えていった人々の命と、地層のように重なる焦土をイメージした。平和展への出品が決まった今年初めから制作を始め、被爆75年の夏に完成した。

 小林さんが旧陸軍被服支廠の存在を知ったのは約30年前。南区のギャラリーで展示会を開いた際、会場の近くを散歩している途中に、れんが造りの建物を見掛けた。「ぐにゃりと曲がった鉄扉を見て、爆風のすさまじさを思い浮かべた」。多くの動員学徒が被爆し、その後は臨時救護所になった歴史も知った。

 老朽化による倒壊の危険から一部解体も取り沙汰される一方、被爆者を中心に保存を求める声は根強い。「焦土と化した広島の記憶を伝える存在。絶対に残すべきだ」と訴える。

 小林さんと福山市の広田和典さん(71)、尾道市の高田三徳さん(69)の作品計35点を集めた「平和展」は9月27日まで。10日と9月21日を除く月曜休館。同館☎0824(44)3214。(石川昌義)

(2020年8月6日朝刊掲載)

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