×

連載・特集

緑地帯 指田和 消えた家族を追って <7>

 写真と原稿がそろい、デザインを進めるのと同時に、本文の英訳作業も始まった。絵本「ヒロシマ 消えたかぞく」をつくるに当たって、私は「英訳併記は必須」と心に決めていた。原爆やヒロシマのことを、日本だけでなく世界の子どもたちにも知ってもらい、共に考えたかった。出版社も快く承諾してくれた。

 翻訳者には、子どもの語り口調で、リズムあるわかりやすい英語にしてほしい旨を伝えた。文章が短いゆえ、翻訳者もどんな言葉を使うかに苦労したようだったが、頻繁に連絡を取り合い、時代背景や鈴木六郎さん一家の情報、「公ちゃんの気持ち」を共有しながら作業を進めてもらった。

 本文中の「かたきをとる」という公子ちゃんの言葉の捉え方など、編集者も交え、意見を交わしながら表現を検討した。こうして全てがそろい、印刷、製本へ。そして絵本の完成見本を手にしたのは、今年6月末のことだった。しかし、思わず感涙…という間もなく、発刊に合わせ7月に広島で開く朗読会などの準備に忙殺された。

 絵本の完成を本当にかみしめたのは、その催しの冒頭で、参加者を前に初めて朗読をした時だった。笑顔いっぱいの六郎さん一家の幸せな日々を奪い去った一発の原爆。それぞれが別な場所で事切れ、どんなにつらく悲しかったことか。せめてこの絵本の中で、もう一度いっしょに思いっきり生きてほしい…。そんな思いがよぎったとたん、胸がいっぱいになって言葉に詰まってしまった。まぶたの裏に、これまでの絵本づくりの日々が走馬灯のように巡った。(児童文学作家=埼玉県)

(2019年12月17日朝刊掲載)

関連記事はこちら

緑地帯 指田和 消えた家族を追って <1>

緑地帯 指田和 消えた家族を追って <2>

緑地帯 指田和 消えた家族を追って <3>

緑地帯 指田和 消えた家族を追って <4>

緑地帯 指田和 消えた家族を追って <5>

緑地帯 指田和 消えた家族を追って <6>

緑地帯 指田和 消えた家族を追って <8>

年別アーカイブ