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世界のヒバクシャ

7. 補償求め闘う底辺の犠牲者

第1章: アメリカ
第3部: ウラン採掘の村

救済運動に尽力

 長い間しいたげられたナバホ先住民たちが、鉱山被害者の救済を求めて立ち上がった。「米国の正義を取り戻したいのです」。フィリップ・ハリソンさん(39)は、アリゾナ州レッドバレーの集会所で、こう切り出した。

 彼は父親を鉱山で失った遺族の1人である。「ウラン採掘作業員支援委員会」を組織して10年がたつ。以来フォーコーナー一帯で表面化した鉱山被害者の救済運動に打ち込む。この運動は、奪われた彼らの権利回復の闘いでもあり、その影には先住民の過酷な歴史を踏まえ、自立の道を模索する姿があった。

 ナバホ先住民は、18世紀までメキシコ国境に近いニューメキシコ州アルバカーキの北西一帯に住んでいた。それが白人に押されて次第に西へ移動して行った。そして集められたのは、白人が使えない不毛の地、フォーコーナー地域だった。

 「神は耕す者に土地を与えた。耕作せず、動物を追って移動するインディアンに、神は土地所有を認めない」。そんな白人の一方的な論理を押しつけられた。

 岩と砂。植物といえは低木ばかりで、これまで白人がこの地域に目を向けたのは西部劇映画の撮影の時くらいという荒野が、核時代の幕開けとともに「宝の山」に変じた。人々は目の色を変えて、鉱脈を探しては掘って行った。ナバホ先住民は、採掘の最前線で働いた。

うそが悲劇生む

 かつてナバホ自治政府で、鉱山の環境対策を担当したハロルド・ツソーさん(60)が、こんな裏話を教えてくれた。「ウラン採掘前に、国がナバホに説明したのは『掘るのは銅』。土地の賃貸契約書にも『銅など採掘』と明記されている。ウランなんて字はどこにもない。土地代は40アール当たり年1ドル。このうそが悲劇を生んだ」

 鉱山や精錬所の安全対策が進んだのは1970年代に入ってからだった。「白人の従業員が増えて、環境改善を要求してから変わったようだ」と州政府環境局の幹部が、あきれ顔で話した。

  周辺住民への被害について全体的な調査はない。だが「レッドバレーなどフォーコーナーの乳幼児死亡率、先天性異常は平均の2倍。小児がんも多発している」という報告もあり、被害が徐々に出ているのは確かなようだ。

 「ひどい条件下で働かせるだけ働かせ、採算が合わなくなったら放り出す。こんな会社のやり方も、それを許した政府も、泥棒と同じ。ナバホを白人の道具としか考えていない」。ハリソンさんの口調は厳しい。

国の補償は当然

 ナバホ居留地を車で走って気付くのは、舗装道路がないことである。耕地もわずかしかなく、カリフォルニアのような灌漑(かんがい)用水はない。電話もまだ珍しい。電気が今年(1989年)やっとついた地区もある。社会資本の整備が極度に遅れている。このため「生活保護が60パーセント以上」(ハリソンさん)という状態に置かれている。

 今、ハリソンさんらが目指すのは、被害者援護法の制定だ。「私たちは米国の核政策を底辺で支え、その犠牲になった。その被害は国が補償して当然」という論理だ。ただ、一つの法律を成立させるのに10万ドル以上もの活動資金が必要とされる国柄である。

 「10万ドルなんてナバホには途方もないお金。でもこのまま黙っているわけにはいかない。首都ワシントンの目をこちらへ向けさせるために頑張るよ」。ハリソンさんは別れ際に「ヒロシマの被爆者に、オレたちも『ヒバクシャ』だと伝えてくれ」と言った。