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世界のヒバクシャ

4. 被曝兵士の2世にも障害

第3章: 太平洋諸島・オセアニア
第5部: クリスマス島 英核実験被害者たち

生まれつき足が不自由

 娘が重度の障害を持つ被曝退役軍人のロバート・ビリングスさん(51)一家は、ヨークシャー州リポン市の町外れのアパートに住んでいた。人口1万人の小さな町である。訪ねると、妻のバラーリエさん(47)と娘のクレアさん(16)が迎えてくれた。

 ロバートさんは1958年、クリスマス島で5回の核実験に立ち会い、以後すっかり体調を崩した。今では左目を失明し、右半身は完全に麻痺している。たびたび発作に襲われる彼は、人との会話もままならない。

 高校生のクレアさんは、生まれた時から左足に障害があった。右足より18センチ短いうえに、かかとがなく指も3本しかない。主治医が金属と皮を使って開発してくれた特殊な義足を着けて少しは歩けるが、義足の重さは4.5キロもあり、体に負担がかかるため長時間歩くのは無理だという。

 ビリングス家族は、クレアさんの障害が、父親が被曝したためにもたらされた遺伝的影響だと考えている。「お父さんもお母さんもたくさん兄弟姉妹がいるけど、障害のある子供は1人もいないのよ」とクレアさん。娘の言葉を引き取るようにバラーリエさんは「娘が生まれた時、医師は『妊娠中に放射線に当たったことはないか』とか、『サリドマイドを服用しなかったか』なんて聞いたわ。でも、放射線に当たったことはないし、薬も飲んでいないのよ」と言った。

 一家が遺伝的影響を疑うようになったのは、ここ4、5年のことだ。被曝退役軍人協会の活動を通じて、会員の子供たちに障害者や病弱者、死産児が多いことを知ったからである。

「国を訴えるつもり」

 協会は2千人の会員の健康状態を個別に調べていた。それによると、会員の子供は200人の死産を含めて700人に何らかの異常があった。クレアさんのケースはまだ軽い方で、脳障害、白血病、神経障害、心身の重複障害、性別不明の子供などさまざまな異常が報告されている。

  ロバートさんのような元兵士には、兵役中の負傷や病気で国を訴えるにはさまざまな法的制約がある。「だからこそ、私の役割があると思うの。私はお父さんのような被曝兵士や、障害を持つ子供の代弁者として、多くの人に真実を知ってもらいたい。時がきたら国を訴えるつもりよ」とクレアさんは強い口調で言った。

 小学生時代は同級生にからかわれ、いつも泣いていたというクレアさん。両親を恨んだこともあったという。しかし、父親の被曝体験を聞き、放射線被曝の影響について勉強するにつれ、少しずつ強くなっていった。「将来は医療ケースワーカーの資格を取って、障害者の相談相手になるの」という夢を聞きながら、核実験がもたらした罪の深さを思わずにはいられなかった。