6. 地下水汚染
13年2月19日
第4章: インド・マレーシア・韓国
第1部: 核と貧困―インド原子力開発の影
第1部: 核と貧困―インド原子力開発の影
障害・病気が多発
インド原子力庁の核燃料複合施設(NFC)は、人口300万人のハイデラバードの北東25キロ、人口密集地のすぐ隣にあった。ジャズグダ村で採掘、精錬した酸化ウラン(イエローケーキ)は、すべてここに運び込まれる。
原子力庁ご自慢の核施設NFCは、インド国内で使う核燃料のすべてを賄う巨大な工場である。だが、原因不明の病気と貧困にあえぐ周辺住民の目には、汚染の元凶としか映らない。
サリサちゃん(女、5歳)=ひざを組んだように曲がったままの両足のため、両手で体を支え、はうように歩く。
スマラサちゃん(女、3歳)=両手、両足が短く、知恵遅れの先天性複合障害児。
スリラムルちゃん(男、6歳)=3歳の時から原因不明の病気で寝たきりのまま。
「病気や障害の子供の名前を挙げたらきりがないよ」と労働災害で両手を失ったP・ラムルさん(25)が言った。バラックのような家が立ち並ぶアショクナガー村は、人口約1,500人で、道路を隔てた向こうに、NFCの塀が続く。
「子供だけじゃない。オレと同じようにNFCで働いていた31歳と40歳の男性が最近、亡くなったよ。2人とも病名さえ分からないんだ」。ラムルさんはため息まじりにこう言った後、「それに」と続けた。「井戸水を使っちゃいけないと言われて困ってるんだ」
排水、1日5万トン
ハイデラバードを中心に活動する環境保護団体の会長でオスマニア大学のプレショタム・レディ教授(46)によると、地下水の汚染はアショクナガー村だけでなく、NFCの工場周辺の12村に及び、さらに範囲を広げつつある。
「汚染源は工場北側にある廃棄物貯蔵プール『ラグーン』以外考えられない」とレディ教授は言う。太陽熱で自然蒸発させる方式のこのラグーンには、工場排水が1日5万トンも流れ込む。レディ教授によると、放射性物質にしろ、化学物質にしろ、安全に廃棄し管理する仕組みが整っておらず、地下水は硝酸塩による汚染が特にひどいという。
村を案内してくれたラムルさんは、NFCの安全対策がいかにずさんかを、次のような事故例を挙げて教えてくれた。
1980年と1982年の2回、工場敷地内に捨ててあったスクラップの山が自然発火し、そこで遊んでいた子供たちが焼死したというのだ。80年に4人、82年に2人が亡くなった。「当時は工場の塀などなかったし、だれでも敷地内に出入りできた。子供はおろか大人でさえ、危険だなんて思いもしなかった」とラムルさんはくやしそうにつぶやいた。
「そのスクラップには、発火しやすいジルコニウムも混じっていたんですよ」とレディ教授は言った。最初の事故が起きた時、NFCがとった対策は投棄場所を変えただけだった。「あの塀を張りめぐらしたのは、2度目の事故の後だったんだから。ひどいよ、まったく」。温厚なレディ教授が、気色ばんだ。
村人の「命の綱」だった井戸の使用を止めておきながら、上水道の敷設は計画だけでいっこうに具体化しない。給水車は1日おきにしか回ってこず、水の絶対量が足りない。とすると、残された手段はただ1つ、禁じられた井戸水を使うほかない。
「NFCはオレたちを虫けらとしか考えてないんだよ」とラムルさんは苦々しそうに言った。