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世界のヒバクシャ

3. 多発する呼吸器疾患

第6章: ブラジル • ナミビア
第2部: ナミビア 砂漠のウラン採掘

立ちこめるダスト

 オープン・ピットと呼ばれるウランの露天採掘場は、砂漠の中の巨大なすり鉢である。幅1キロ、長さ3キロ、深さ250メートルにも及ぶ。見下ろすと、動き回るショベルカーも、鉱石運搬のトラックも、まるでおもちゃのように見えた。

 ここで働く黒人やカラードの労働者に、呼吸器系の病気が多いという。「夜寝ていると、胸に鈍い痛みを感じて息苦しくなることがよくあるんだ」。重機のオペレーター、ヘネリック・アウェセブさん(29)は、左胸に手をやりながら言った。彼は採掘場に入って9年になる。「鼻やのどの調子もおかしい。ダストのせいではないか」と不安がる。

 作業中、吐き気に襲われ、気分が悪くなるのも心配のタネになっている。それでも会社の医師は「たいしたことじゃない」と言うだけだ。「病名すら教えてくれない。ここの医者はあてにすることはできないよ」とアウェセブさんは不信感をあらわにした。

 ウラン回収工場で働くラインハルト・ノワセブさん(34)は5年前、「のどの病気」で入院した。しかし今も、どこが悪かったかよく分からない。彼が知っているのは、甲状腺が悪いらしいということだけだが、甲状腺が何かは知らなかった。

 鼻、のどの異常を訴える労働者、せきが止まらず夜も眠れないという人…。聞くと、たいていの労働者が、マスクも、放射線量を測るフィルムバッジもつけずに働いている。

 「会社から言われているのは、作業用眼鏡と靴の着用。それとショベルカーの窓を締め切って、外に出るなってことさ」。労働組合の紹介で会ったジェームス・ディノさん(45)がこう説明してくれた。

 オープン・ピットの底は、風がほとんど吹かない。30度を超す暑さと、逃げ場のないダストが立ちこめる職場である。「休憩時間といえば、次のトラックが来るまでの2、3分。その間にサンドイッチを詰め込むのが、おれたちの昼食さ。ダストはエアコンを通って車内にも入り込むからサンドイッチも、それをつまむ手もダストだらけさ」。ショベルカーの運転手、マティアス・シラスさん(40)は、そう言って首をすくめた。

内部被曝が問題に

 露天掘りしろ、鉱内掘りにしろ、ウラン鉱山の労働者にとって大きな問題は、外部被曝よりも内部被曝である。ダストに含まれる放射性物質を体内に吸い込むからだ。ロッシング鉱山の場合、呼吸器系の病気が多いのは、今のところ「じん肺」という見方が強い。

 しかし、だからと言って安心できないことは、米国ニューメキシコ州のウラン鉱山などで立証ずみだ。ダストにウランが含まれている以上、労働者の内部被曝は確実に進んでいるとみなければならない。

 オープン・ピットの労働者にそのことを話すと、「おれたちの体はいったいどういうことになるんだい」と険しい表情になった。互いに顔を見合わせながら、不安そうな話し合いがしばらく続く。

 「おれの職場で3、4年前、肺がんで死んだ仲間がいる。ウランのせいだろうか…」。  ダストまみれのよどんだ空気と猛暑、そんな劣悪な環境とあからさまな人種差別に耐えながら、黒人やカラードの労働者たちは、ひたすらウラン鉱石を掘り続けてきた。

 労働組合のウィンストン・グリューネバルト委員長が、労働者の作業環境について「会社とは何度も交渉したけど、病気のことは医学の専門家にしか分からないの一点張り。だから労使交渉の議題にできないんだ」と苦しそうに言った。