4. 内密でラドン調査
13年3月6日
第6章: ブラジル • ナミビア
第2部: ナミビア 砂漠のウラン採掘
第2部: ナミビア 砂漠のウラン採掘
風下の「オアシス」
ロッシング鉱山から北に12キロ、鉱山労働者の社宅が建ち並ぶアランディスの町は、砂漠の真っただ中にある。1970年代末から入居が始まり、今、900家族、2,500人が暮らす。
平屋建ての全住居には、広い居間、3つの寝室、太陽熱温水機などがつき、いつでもシャワーが使える。学校、病院、教会、スーパーマーケット、レクリエーションセンターがあり、豊かな緑に包まれ、「ニュー・オアシス」と形容したくなるように、ゆったりとしたたたずまいを見せる。
「ちょっと見ると快適そうだろう。でも実は、ここの住人は、熟練度の低い黒人とカラードの労働者だけでね」。案内してくれた鉱山労働組合副書記長のヒルトン・ビレさん(26)が教えてくれた。
白人全員と熟練度の高い黒人やカラードの労働者は、鉱山から西へ65キロ離れた大西洋岸の保養地スワコプムントの社宅で暮らしている。
「アランディスは鉱山の硫酸ガスが飛んできて、のどをやられる住民が多い。組合でも問題にしているけど、会社は『心配ない』と言うばかり。それに引きかえ、スワコプムントは海辺で環境もいい。差別待遇の見本のようなもんだよ」と、ビレさんはいまいましそうに舌打ちした。
外来者には快適なニュー・オアシスと見えるアランディスだが、住民にとって最大の問題は、この町が鉱山の風下に位置していることのようだ。風下に住めば、ウランの採掘、精錬に伴って大気中にばらまかれる有害物質と無縁というわけにはいかない。
社宅に測定器配る
町の中を歩き回っていて、住民が危険にさらされている証拠ともいえる、奇妙なプラスチック容器に出くわした。社宅に住む労組の副委員長、ポール・ロイさん(33)と彼の友人宅を訪ねた時のことだった。不在の友人に代わって応対した妻のフリーダー・ウォベットさん(38)が「ラドン・ガスって何なの?」と、だしぬけに問いかけてきた。
聞けば、1989年11月、会社から2人の職員が来て「ラドン・ガスを調べる」と言って小さな植木鉢のようなポットを置いて行ったという。「これなの」と、彼女が窓辺から持ってきた2つのポットは、高さ約10センチの円錐(えんすい)を逆さにしたような形をしていて、裏に「989」「990」の数字があり、ふたを外すと白い紙のフィルターのようなものが入っていた。
ラドンといえば、ウランが放射線を出しながら「逐次崩壊」してできる物質だ。ラドン自体も放射性物質で、肺がんの原因にもなる。
「こりゃ、いったいなんだ」。ロイさんが恐る恐る手に触れた。ビレさんに聞いても「こんなもの初めて見た」と首をひねるだけだった。「よく分からないけど、フィルターがラドンを吸収するらしいわ。時々、取り換えに来るので、言われるままにしているの」と、彼女はけげんそうな口ぶりで言った。
放射線の影響については何1つ触れず、あいまいな説明のもとでラドンのチェックは始められた。会社が、鉱山から放出されるラドンの問題に気づいて、風下のアランディスで、データの収集に着手したことはまず確実だ。
「ラドンって、そんなに危険なものなの?」。ウォベットさんが心配そうに言った。「おれたちが知らないうちに、こんなことをしていたのか。さっそく、全部の社宅を回って調べてみる必要があるな」。副委員長のロイさんの表情が引き締まった。