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世界のヒバクシャ

5. 見学ツアー 安全性PR

第6章: ブラジル • ナミビア
第2部: ナミビア 砂漠のウラン採掘

国連布告に触れず

 ロッシング鉱山の熟練労働者用社宅がある保養地スワコプムントに滞在中、ホテルのフロントで、ウラン鉱山見学ツアーのポスターが目にとまった。毎週金曜日、半日の行程で、参加費はわずか5ラント(300円)とある。

 鉱山内の取材申し入れに、まだ返事が届いていなかったので、下見のつもりでツアー参加を申し込んだ。

 午前8時、ホテル近くの集合場所に行くと、50人近い白人が集まっていた。かつてドイツの植民地だったせいか、西ドイツ(当時)からの観光客が圧倒的に多い。ほどなく迎えのバスがやってきた。「WORKING FOR NAMIBIA」(ナミビアのために働いています)と、会社のキャッチフレーズを大書した車体が目を引いた。

 バスは50分ほど走って、社宅の町アランディスに入った。鉱山労働者用のレクリエーションセンターで、コーヒーをごちそうになりながら、かわいらしい女性ガイド、ベス・フォルシェンクさんの概要説明を聞く。

 ロッシング鉱山の生い立ち、採掘から精錬までの作業工程などが語られたが、むろん国連がナミビアの天然資源の輸出禁止を布告していることには一言も触れない。アランディスが黒人とカラードだけの町であることにもだ。

 しばらく町の中を回り、バスは10時過ぎ、ようやく鉱山に着いた。まず露天掘りのオープン・ピットへ案内され、ここでバスから降りて、階段状に掘り進んだ深さ250メートルの採掘現場を見下ろした。わずか15分ほど歩き回って眼鏡を外すと、ガラスに細かいほこりが付着している。これが、労働者が恐れる「ダスト」だ。

「心配ない」の一言

 再びバスで、鉱石を砕く工程や酸化ウラン製造工場を回る。その途中、ガイドのフォルシェンクさんが「ロッシング鉱山で働く人たちの平均被曝線量は年間0.3レム。放射線作業従事者の国際的な基準は5レムだからまったく問題ありません。会社の放射線対策は万全です」と放射線被曝について説明を始めた。

 放射線対策より何より、ロッシング鉱山では一般の安全衛生基準さえ満足に実行されていない。ツアーの前に、労働者と会ってそんな実態を取材していただけに、0.3レムという数字をすんなり信じる気にはなれなかった。

 ツアーを終えて、労働者に0.3レムの事を聞くと「そんな数字は聞いたことがない」と顔を見合わせた。ツアーの客にはデータらしいものを示して熱心に「安全」をPRするのに、労働者には何も知らせていないのだ。

 「これがロッシング流のやり方さ。それにしても、放射線について勉強するには、おれたちも鉱山の見学ツアーに参加しなくちゃいけないようだな」。労働者の1人が、半ば本気とも受け取れそうな皮肉を口にした。

 後日、すったもんだの末、鉱山のゼネラル・マネジャーのスティーブ・ケスラー氏に会った。労働者の被曝線量、呼吸器系疾患の多発、それにアランディスの社宅のラドン・ガス検査などあれこれと質問をぶつけてみたが、「会社は、従業員や家族の福祉と健康には最大限の関心を持ち、努力を続けている」という答えが返ってくるだけだった。

 別れ際に、労働者のがんへの不安について尋ねたら、ケスラー氏は自信たっぷりにこう言った。「将来にわたって放射線被曝の影響を心配する必要はまったくない」