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ジュニアライター発信

Peace Seeds~10代がまく種~ <8> 10代の自殺を考える 若い命 どう守る

 10代で1年間に亡くなった人のほぼ3人に1人が自殺(2012年)ということを知っていますか? 平和な世界にするため、私たちと同世代の人たちが、自ら死を選び、命を絶つことがないような環境(かんきょう)にする必要があります。10日は世界自殺予防デーです。10代の自殺についてデータ集めや分析(ぶんせき)とともに、自分たちに何ができるかを取材し、考えました。

10~39歳 死因1位

 2012年の1年間に、日本全体で2万6433人が自殺により亡くなりました。自殺は10~19歳(さい)の死因第1位で、585人が亡くなっています。これは、この年代で亡くなった人全体の31・2%です。中でも15~19歳の自殺者が510人と9割近くを占(し)めています。自殺が死因の第1位になっているのは、10~39歳と若い人たちです。

 また、内閣府・警察庁の「自殺統計」によると、小中高校生の2013年の自殺者は320人でした。うち広島県は11人でした。(高1森本芽依、中3坪木茉里佳)

専門家の声

ひろしまチャイルドライン子どもステーション理事長 上野和子さん

まず寄り添い 話聞いて

 もしも身近に悩(なや)んでいる人がいたら、まずは気持ちに寄(よ)り添(そ)い、真剣(しんけん)に話を聞くことが大切です。「要らないことは言わず、聞き役に徹(てっ)してほしい」と、NPO法人「ひろしまチャイルドライン子どもステーション」理事長の上野和子(63)さんは強調します。

 「ひろしまチャイルドライン」は1995年、子どもたちの話を聞くことで、子どもが社会に一歩踏(ふ)み出(だ)すことにつながる、として設立されました。18歳以下の子どもから電話を通して話を聞いています。人間関係やいじめなど平均で月千件近くの電話がかかってきます。自殺に関する相談は年間20件ほど。自殺を考える人で一番多い悩(なや)みは人間関係です。改善できず耐(た)えきれなくなるそうです。

 「チャイルドラインに限らず、自分に合った相談相手を捜(さが)して」と指摘します。誰(だれ)かに話せる環境(かんきょう)があればいいのです。

 現在の課題は電話を受ける人が足りない点です。約50人いますが、なかなか増えません。上野さんは「今のままでは子どもたちの支援(しえん)に限界がある。ボランティアではあるが協力してほしい」と話します。特に若い人や子育て中の人を希望しています。(高1新本悠花・写真も、山下未来)

子どもの精神医学に詳しい 松田文雄病院長

兆候気付き声かけて

 子どもの精神医学に詳(くわ)しい松田病院(広島市南区)の松田文雄院長(62)によると、中高校生など思春期の自殺は、いじめなど友人関係に悩(なや)んだり、成績が悪かったり、親や先生にしった激励(げきれい)されたりして、「どうせ自分なんて駄目(だめ)なんだ」「生きていると迷惑(めいわく)になる」と自己価値観を低くしてしまうのが特徴です。周囲からの「そんな大したことじゃない」「努力すればできるよ」といった励(はげ)ましの言葉も、「大したことじゃないのに、自分はできない」などと否定的に受け取って、絶望感や苦悩(くのう)を抱え込んでしまいます。

 「自殺の予測は難しい。兆候に気付けるかどうか、そしてどう対応していくかが肝心(かんじん)」と松田院長は言います。人は絶望感や孤立(こりつ)感だけでは死にません。これらの感情から逃(に)げて楽になれる方法を考えると自殺につながります。さらに、死に対して否定的な考えを持っていない人ほど、自殺する確率は高くなります。

 大切にしていたものを誰(だれ)かにあげてしまう、急に親に対して育ててくれたことの感謝を言うなど、自殺の兆候にいち早く気付くのが大切です。

 悩んでいる友達を見つけた時は、「最近、元気なさそうだけど、どうしたの」など、まず相手が話しやすいようにきっかけをつくります。話を分かろうとすることが大事だそうです。同世代の友人や先輩(せんぱい)に話して、「分かるよ」「自分もそう思ったことある」と理解してもらうことによって、気持ちが楽になります。親や教師に相談した場合、分かってもらえず「言うんじゃなかった」と苦しむ人もいます。

 松田院長は「自殺の実態を教えないほうがいい、という考えがあるが、危険性を知ってもらうという点で、教育に盛(も)り込(こ)んでほしい」と話します。自殺を防ぐためにできることはたくさんあります。僕も悩んでいる人を見つけたら相手が話せるようなきっかけをつくりたいです。(高1中原維新)

死を望んだ中3女子の手記

いじめ原因 苦しい日々

同級生の言葉で気が楽に

 私は、小学4年ごろから中学1年まで死にたいと思っていました。1人で部屋にこもって枕(まくら)に顔をうずめて「自分なんて死んでしまえばいい」「私なんて何で生まれてきたんだろう」と言っていたのです。

 原因はいじめでした。小学1年の時、隣(となり)の席の男子に校庭で突然(とつぜん)殴(なぐ)られたことから始まりました。「デブ」「ブス」などと言われたり、私をばかにする替(か)え歌(うた)を歌われたりしました。本ばかり読んでいる、色が白くて太っている、成績が良い、先生にひいきされているらしい、といった理由だったようです。

 クラスが変わっても状況(じょうきょう)はそのままどころか、どんどんひどくなりました。3年の春ごろ、公的な団体に手紙を送りましたが、「近くの大人に相談しよう」という返事だけでした。3、4年のころ、母が校長や担任に訴(うった)えたものの、何も変わりませんでした。

 5、6年のころには、学校のトイレでリストカットしようとしたり、家で首をつってみたり…。ただ一人、同級生の女子がそばにいてくれたおかげで死なずに済みました。彼女(かのじょ)に「あんたのことが好きだからやるんよ」と言われて、気が楽になったのです。

 中学1年になり、靴(くつ)に画びょうを入れられたこともありましたが、無視しました。今でも時々、話したことさえないような同学年から、すれ違(ちが)いざまに「キモい(気持ち悪い)」と言われることがありますが、ひたすら無視しています。

 今は、新しい友達ができて、以前ほど死にたいと思わなくなりました。しかし、小学生時代を思い出したり、母や兄、先生に怒(おこ)られたりすると「私は必要とされていない」「私は邪魔(じゃま)者」と死にたくなることがあります。ふとした時にマイナス思考になることもあります。長い間いじめを受けたせいだと思います。

 世の中から、いじめ自体はなくならないと思います。「いじめられている」と思わず、「自分は人に意識される存在になっている」「人より秀(ひい)でた部分があるからねたまれている」と自分に言い聞かせるといいのではないでしょうか。それで「ねたまれるほど良いヤツが死ぬなんて、世界にはデメリットだ」と思えば、死ぬ意味がなくなるでしょう。

(2014年9月8日朝刊掲載)

自殺の兆候発見チェックリスト

□ 大切なものをあげてしまう。
□ 死ぬための具体的な方法を親に尋ねる(何階から飛び降りたら死んでしま うのか?睡眠導入剤は何錠飲むと危険か?)
□ 死んだらどうなるか?(死後の世界のことを聞いてくる)
□ 自殺マニュアルや死後の世界の本などを買う。
□ パソコンや携帯電話で、自殺サイトなどを検索する。
□ 部屋などの身辺をきれいに片付け始める。
□ リストカットを繰り返す。
□ 「死にたい」「生きていても何もいいことがない」という言葉を口にする。
□ 急に泣きだす。理由を聞いても言おうとしない。
□ 「心配かけてごめんね」「今までありがとう」「体大丈夫?」など親の体を 心配したり、育ててくれたことにお礼を言ったりする。
□ ロープや長く太い紐(ひも)、カッターなどふだん見慣れないものが、無造 作に子ども部屋にある。また、ノートが無造作に机に置いてあったりする。

(2007年10月、埼玉県教委によるハンドブックから抜粋)

≪編集後記≫

 ジュニアライターになってから、最も取材したかったテーマでした。少しでも子どもの自殺が減ってほしい。そんな思いが伝わればうれしいです。(中3坪木茉里佳)

 今回は私の年代と深い関係がある取材でした。子供の死因第1位は自殺で、実際チャイルドラインに自殺に関する電話がかかってくると知りとても悲しくなりました。人の心を話を聞いてあげる事で楽にするのは大変ですが、いつでも相談が出来る場所があるというのは安心だと思いました。(高1新本悠花)

 僕は今まで友達からの相談で自殺をしたい、という内容を聞いたことはありません。ですが、それは誰にも話せないだけかもしれません。自殺を減らすためにどうしたら辛い気持ちを和らげてくれるか考え、実行したいです。(高1中原維新)

 交通事故で亡くなる人の6倍もの人が自殺で亡くなっていることに驚きました。自殺は身近に起こっている問題だと実感しました。(高1森本芽依)

 1日1.4人もの18歳以下の人が自殺をしていると聞き、胸が痛みました。友達が私に相談してくれたときは、話せてスッキリしたと思ってもらえるように、相手の話を真剣に聞きたいです。(高1山下未来)

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