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ジュニアライター発信

Peace Seeds~10代がまく種~ <4> 戦時中の食事 

食材も調理も工夫

 戦時中は食糧(しょくりょう)が配給制になりました。特に、都心部に住んでいる人たちは食べる物がなく、ひもじい思いをしました。ジュニアライターは、当時を知る人に体験を聞くとともに、広島市西区出身の漫画(まんが)家こうの史代さんの作品「この世界の片隅(かたすみ)に」に載(の)っている当時の食事を作り、栄養バランスについて取材しました。ヒメムカシヨモギ(鉄道草)やカタバミなどの雑草に加え、七つの川が流れていた市中心部では、水中の生き物を食べ、塩も海水で作っていました。無駄(むだ)のない調理法は、現代の生活でも活用できそうです。

試作しました

梅干しの種や雑草を活用 手間惜しまぬ母心

 私たちは、映画制作の一環で戦時中の食事作りに携(たずさ)わった経験がある広島フィルム・コミッション(中区)の西崎智子さん(48)の指導を受け、実際に食べられていたとされる当時の料理を作って食べてみました。食糧難だったため、カタバミやスギナなどの雑草も貴重な材料となっていたようです。

 どの料理も食材はシンプルですが、手間がかかりました。色や栄養などの工夫もされています。また、梅干しの種でだしをとったり米のかさを増したりと、お母さんたちは考えて料理していたのです。西崎さんは「食を通して当時の生活の苦しみについて想像力を働かせてほしい。そして、おいしく食べてほしい、と願って作っていたお母さんの思いと生活が一瞬(いっしゅん)で奪(うば)われる悲惨(ひさん)さについても考えてもらいたい」と話していました。(文・高1河田紗也加、写真・高1松尾敢太郎)

県立広島大が献立分析

栄養に難 無駄は出さず

 県立広島大(南区)健康科学科の西田由香准(じゅん)教授(39)と同科4年の稲村彩香(いなむら・あやか)さん(22)植田美都希さん(23)森広真菜さん(21)によると、今回作ったメニューを含(ふく)む戦時中の食事は、エネルギー不足に加え、タンパク質と脂質(ししつ)が少ないというマイナス面があります。

 材料を見ると、炭水化物は多いのですが、タンパク質はイワシだけ。油や肉も使っていません。エネルギーが足りないと発育が悪く栄養失調になります。タンパク質が少ないと、免疫(めんえき)力が低下し結核(けっかく)や肺炎(はいえん)にかかりやすかっただけでなく、血管がもろくなって脳出血なども多かったそうです。

 しかし、悪い点ばかりではありません。玄米(げんまい)やサツマイモ、野菜から食物繊維(せんい)がたくさん取(と)れています。大腸がんなどの予防につながっていました。玄米には糖をエネルギーにするビタミンB1が多く含まれているなど、おかずに足りない栄養も補っていました。  また、作り方にも工夫が詰(つ)まっています。大根の皮を使ったり、梅干しの種をイワシの臭(くさ)み取りと塩分やアミノ酸を加えるために利用したりしています。また、いって水を吸いやすくなった玄米は、3倍の水で炊(た)いてかさ増しし、イワシの干物を煮(に)た汁(しる)を使って、みそを節約するなど、活用しています。(高1林航平、中2中川碧)

戸田さん振り返る

空腹は水で満たした 塩もしょうゆも自家製

 広島市宇品町(現南区)に住んでいた被爆者の戸田照枝さん(82)=写真=は終戦時は13歳でした。食べる物がなく、ほぼ毎日、米も具も少なくて水の多い雑炊(ぞうすい)だったと振(ふ)り返(かえ)ります。

 食べ物が手に入らなかったため、戸田さんの母親が大根や白菜、サツマイモなどの野菜を育てていました。取れた野菜は、数えるほどの米と雑炊にして食べていました。それでも足りず、自宅そばの御幸橋近くの土手でスギナやワラビ、ツクシなどを採っていました。川にはアサリやザリガニ、アオサもありました。

 空腹を感じたら水を大量に飲んで満たしていました。子どもたちに大人は「おなかがすくから走ったら駄目」と言ったそうです。

 調味料もありませんでした。塩は、京橋川の水をくんで、蒸発させたり釜(かま)で煮(に)たりして作っていました。みそやしょうゆは家で造っていたそうです。  戦後、献血をしようと思ったら血が薄(うす)いと言って断られました。「幼いころの栄養不足が原因かもしれない」と振り返ります。(高3村越里紗、高1岡田春海)

《編修後記》
 聞く機会の少ない戦時中の生活について詳しく知ることができました。当時戸田さんが住んでいた場所が、私の自宅近くだったので、普段の平和学習では感じることのない親近感がありました。現在でも時々、家の駐車場にカニが来ることがあります。でも食べません。川に逃がしています。(高1岡田春海)

 品種改良されたこともあり、試食したメニューは予想外に美味しかったです。玄米は炒る時にポップコーンのように少しはじけて面白かったです。食料がありふれている今では味わえない良い経験となりました。毎日当たり前に食べられる食事に感謝して、残さないようにしようと思いました。(高1河田紗也加)

 栄養の話などあったけれど、たくさん難しいことも西田さんが分かりやすく教えてくださり、中学生の私にも理解することができました。県立広島大にも初めて入り、研究室はイメージとは少し違っていて明るい雰囲気でした。驚きがたくさんありました。(中2中川碧)

 今回の取材で感じたのはもっと「食」に関心を持ち感謝すべきだということです。まずは好き嫌いをなくし、苦手なレタスを残さないようにしたいです。(高1林航平)

 個人的には、さつまいもの団子が一番おいしいと思いました。栄養が少ない食料しか手に入らない戦時中に、なるべく工夫して家庭で満足に食べられるように、知恵を働かせる当時の国民のたくましさを感じました。(高1松尾敢太郎)

(2014年6月23日朝刊掲載)

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