[ジュニアライターこの一作] 「彼岸花はきつねのかんざし」(朽木祥・作、ささめやゆき・絵)
15年9月29日
命奪った原爆 許せぬ
この本には、原爆被害の恐(おそ)ろしさの描写(びょうしゃ)はありません。でも、ピカ(原爆)の後、いつまで待っても身近な人たちが帰ってこなかった事実を淡々(たんたん)と書くことで、その人たちはどうなったのだろうと想像させ、読んでいて、より悲しみが深まりました。
主人公の也子(かのこ)が「白い彼岸花(ひがんばな)が欲しい」と無理な願いを言った後、子ぎつねの消息が分からなくなります。ピカの時にちょうど街に探しに出たからだ―。也子に深い悔(く)いが残りました。
私は、毎日会っている人でも、もしかしたらその日が最後になるかもしれないと思えば、後悔(こうかい)が残るような態度はできないなと思いました。
また、原爆で大切な命を奪(うば)われたのは人間だけではないとあらためて気付きました。犬も猫も鳥も虫も草も木も、広島で生きていた多くの命が一瞬(いっしゅん)で絶たれたのです。
この本に描かれた戦時中の生活は確かに苦しかったけれど、その時なりの日常の幸せがありました。それを一瞬で奪った原爆はなんと恐ろしく、許しがたい兵器なのだろうと思いました。(高2佐伯雛子)
(2015年9月28日朝刊掲載)