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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「二つの祖国」(山崎豊子著) 不当な差別 許せない

 主人公の天羽賢治は、米カリフォルニア州で日本語新聞の記者をしていました。米国籍(こくせき)の日系2世ですが、太平洋戦争が始まると、強制収容所に入れられます。米国人として生きる賢治を、日系人という理由で収容所に入れるのは「ひどい」と思いました。

 「差別をする過激な米国人の迫害(はくがい)から日系人を守るため」という米政府の主張はある程度理解できます。しかし、そんな差別があること自体おかしいし、収容所に入れられて喜ぶ人はいません。

 日本語能力に優れた賢治は、収容所から出され、将校として戦場に向かわせられます。米政府に「利用」されたのです。戦後は、連合国が日本の戦争指導者を裁いた極東国際軍事裁判(東京裁判)で、通訳の内容をチェックする役割をしますが、法廷(ほうてい)で拳銃(けんじゅう)自殺しました。米国と日本という二つの祖国が、戦争でお互いを攻撃(こうげき)し合った結果、自分の「居場所」を失ったからでした。

 文庫本で4冊の大作。僕が3カ月かけて読破できたのは、著者の山崎さんの、歴史を見つめ直す必死さがひしひしと伝わってきたからでした。賢治が抱えたような苦しみを、「一つの祖国」で暮らす僕も忘れてはいけないと思いました。(中1伊藤淳仁)

(2015年11月30日朝刊掲載)

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