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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「出口のない海」(横山秀夫著) 語り継ぐ使命感じた

 読みながら泣きました。大学野球の投手だった主人公の青年は、第2次世界大戦の荒波の中、特攻(とっこう)兵器である人間魚雷(ぎょらい)「回天(かいてん)」の搭乗員(とうじょういん)となります。約束された目前の死。それに向けて、家族や恋人(こいびと)、友人、そして野球への思いを抱(かか)えながらの訓練が続くのです。私なら耐(た)えられません。

 「平和な時代に回天を伝えるために死ぬ」。彼がたどり着いた覚悟(かくご)です。追(お)い詰(つ)められた状況での究極(きゅうきょく)の結論だったのでしょう。ただ、彼が自分を犠牲(ぎせい)にしてまで伝えようとした回天は果たして語(かた)り継(つ)がれているといえるのでしょうか。

 人が兵器の一部になったという悲しい事実を、知りませんでした。若い世代をはじめ私と同じような人は少なくないと思います。

 私はソフトボール部所属(しょぞく)です。部活動が普通(ふつう)にできるというありがたさに気付きました。彼にも野球を精いっぱいしてほしかった。二度と彼のような体験をする人がないよう、戦争、そして回天の愚(おろ)かさを、次世代へと語り継ぐことが私たちの使命だと感じました。(高2山下未来)

(2015年5月4日朝刊掲載)

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