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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「海と毒薬」(遠藤周作著) 人体実験 想像超える

 読み終わって激しい疲(つか)れを感じました。作品は、太平洋戦争中、上司の指示で米国人捕虜(ほりょ)の人体実験を実行したある医大の医師と看護師の3人の心境をつづっています。僕はその一人一人の気持ちになりきって、読み進めました。しかし、彼らの考えていることは、想像を超(こ)えていました。

 もし、僕が同じ状況(じょうきょう)で、上司から実験への参加を問われたら、きっと「はい」とも「いいえ」とも言えず、ただ黙(だま)り込(こ)むのではないかと思います。上司の提案を断って人道的に生きるか、意向に合わせて人を殺す実験に参加するか―。どちらか一方に決められるほど僕の心は強くないからです。当事者の一人、勝呂(すぐろ)医師もこの二つの選択肢(せんたくし)の間で心が揺(ゆ)れ動きます。

 勝呂医師以外の2人が参加を決めた理由も、人を殺すことと釣り合うとは感じられず、理解できませんでした。ただ、最終的にはこの3人も、感情移入して読んだ僕も結局、捕虜の命や医学のことより「自分のこと」を一番に考えていたのではないのかと、心の中の身勝手さに気づかされました。(高1谷口信乃)

(2015年2月2日朝刊掲載)

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