[ジュニアライターこの一作] 「ウミガメと少年」(野坂昭如・作、男鹿和雄・絵)
16年11月15日
人の心を変える怖さ
「火垂るの墓」の作者が太平洋戦争中の沖縄戦について書いた本です。かつてウミガメは、浜で卵を産み終えると、人間に果物やお酒をもらったり、甲羅(こうら)に付いたフジツボを落としてもらったりして、かわいがられていました。しかし戦争が始まって人間の態度が変わると、カメの卵は危険にさらされてしまいます。
この本を読んでショックだったのは、少年がウミガメの卵を食べてしまう場面です。少年は砲撃(ほうげき)から卵を守るため、別の場所に運ぼうとします。しかし途中(とちゅう)で割れたのをきっかけに、全部食べてしまいました。初めは卵を助けるつもりだったのに、気持ちが変わって食べてしまうなんて、今の私には想像しにくいことです。
少年がおなかをとてもすかせていたことも一つの理由でしょう。命の大切さが分からなくなっていたとも考えられます。
少年は家族思いでしたが、戦争が激しくなるにつれ、毎日、目の前でたくさんの人が殺されていくのを目の当たりにしていました。なので、ウミガメの卵を食べることに、悪気はなくなっていたかも。人の心も変えてしまう戦争は、恐(おそ)ろしいものです。(中1森本柚衣)
(2016年11月15日朝刊掲載)