[ジュニアライターこの一作] 「明日 一九四五年八月八日・長崎」(井上光晴著)
16年9月14日
幸せな日常奪う原爆
長崎に原爆が投下される前日の1945年8月8日の人々の様子が書かれています。結婚(けっこん)式を挙げる新郎(しんろう)新婦や、出産に臨む妊婦…。幸せそうな場面もあって心が温まります。しかし、翌日には原爆で全てが奪(うば)われてしまうと思うと、突(つ)き放(はな)されたような気持ちになります。
特に出産の場面が心に残っています。ただ「痛い」などの直接的な表現だけではなく、出産を経験したことのない人でも壮絶(そうぜつ)さが分かるような比喩(ひゆ)で表現しています。いかに大変な思いをして、尊い命が誕生したのかが際立っています。
子どもが産まれたのは8月9日午前4時17分です。7時間後には原爆が落とされてしまいます。この母子が原爆投下後にどうなったのかは書かれていません。生き残っていてほしいと思います。しかし、原爆の威力(いりょく)や、もたらした結果を私たちは既に知っています。
最後に、「夜は終わり、新しい夏の一日がいま幕を上げようとして、雀(すずめ)たちの囀(さえず)りを促す」と書かれています。この一文は、何でもない日常を原爆が奪っていったことをより深く感じさせます。(高3岡田春海)
(2016年9月14日朝刊掲載)