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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「ヒロシマのいのちの水」(指田和・文、野村たかあき・絵) 慰霊の献水 若者継承

 原爆犠牲(ぎせい)者の慰霊碑(いれいひ)に献水を続けてきた女性のストーリーです。1945年8月6日、主人公の宇根利枝さんは、託児(たくじ)所の保母さんでした。何とか無事だった宇根さんは原爆で傷ついた人に、「水をくんできてあげる」という約束をしたものの、結局果たすことができませんでした。

 戦後10年ほどがたち、ある寺の滝(たき)の水と出会った宇根さんは、「今からでもあの約束を果たせないか」と考え、慰霊碑への献水を始めました。一升瓶(いっしょうびん)を担いで山道を登り、電車や船に乗って120カ所にも及ぶ慰霊碑を回るという大変な仕事。並大抵(なみたいてい)のことではなかっただろうと思います。

 50年以上にわたって活動を続けてきた宇根さんの思いはどんなものだったのだろう、と考えました。約束を果たせなかったことへの罪ほろぼしや、亡くなった人への鎮魂(ちんこん)、そして宇根さんが生きる上での使命であったのかもしれません。

 それ以上に私が心動かされたのは、活動を知った1人の若者が献水活動を手伝い始めたことです。宇根さんの平和の祈(いの)りが次の世代にバトンタッチされたのです。私もこの絵本を紹介(しょうかい)することで、平和のために自分にできることは何かを考え、実践(じっせん)する大切さを誰(だれ)かの心にバトンタッチできるとうれしいです。(中2佐藤茜)

(2016年7月18日朝刊掲載)

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