×

ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「たった独りの引き揚げ隊 10歳の少年、満州1000キロを征く」(石村博子著)

数多くの「死」に直面

 格闘(かくとう)家のビクトル古賀さん(80)が第2次世界大戦後、10歳の時に満州(現中国東北部)から日本に1人で戻(もど)った様子が書かれています。父が日本人、母がロシア人の古賀さんは、日本人の引(ひ)き揚(あ)げ隊から追い出され、ハルビンの南100キロの第2松花江(しょうかこう)から南部の錦州(きんしゅう)まで約千キロを1人で歩きました。

 持ち前の負けん気と、軍事共同体コサックの中で育った知識を生かして生き延びます。川の位置や風向きを見極めたり、集落でロシア人の家を見分けたり。時には、死人の靴(くつ)も盗(ぬす)みました。また、盗賊(とうぞく)に惨殺(ざんさつ)された親子連れ、力尽(ちからつ)きた老人や幼い子ども…数多くの「死」にも直面します。

 僕(ぼく)だったら耐(た)えられません。道で死んでいる人を見ることもないし、餓死(がし)することもありません。しかし、戦争では多くの子どもが亡くなりました。古賀さんも途中(とちゅう)で死んでいたかもしれません。

 僕の祖母も、0歳の時に曽祖母たちと満州から引き揚げてきました。もし祖母が亡くなっていたら今の僕はいません。今、自分が生きていることに感謝し、多くの人たちの未来を奪(うば)った戦争はあってはならないと強く感じました。(中3上長者春一)

(2016年3月21日朝刊掲載)

年別アーカイブ