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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「ドームがたり」(アーサー・ビナード作、スズキコージ画)

歴史たどり感情移入

 母に読むよう勧(すす)められ、手にとったこの絵本。主人公の原爆ドームが、まるで子どものような口調で「ぼく」と自己紹介するストーリーを聞いて、私は一気に同じ目線に立った気分になりました。

 広島県物産陳列(ちんれつ)館としてスタートした「ぼく」は、しだいに「戦争にかつ」「お国のため」と声を上げる人々に疑問を持ち始めます。そして原爆が投下され、「スカスカ」に。人の体を突(つ)き刺(さ)した原子の「カケラ」は、今なお核実験や原発から生まれていると、おっかなく感じています。

 色鉛筆(えんぴつ)や絵の具で描(えが)いたのでしょうか。鮮(あざ)やかでダイレクトな絵から「ぼく」の顔や表情が伝わり圧倒(あっとう)されます。読み終えてぐったりしました。ああ、原爆ドームも私たちと同じなんだ、と身近に感じました。

 元安川沿いに立つ今の姿だけでも、原爆の破壊(はかい)力は見えます。けれども、その姿が「自分にも起こるかもしれない出来事」へと、視点を変えてくれたのがこの絵本でした。被爆前から今までの世の中の動きを、じっと見つめるまなざしを自分も体験しました。(高2溝上藍)

(2018年4月23日朝刊掲載)

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