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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「風が吹くとき」(レイモンド・ブリッグズ作、さくまゆみこ訳)

平穏な暮らし奪う核

 1982年に英国で出版され、大きな話題を呼んだ漫画(まんが)です。国際情勢が緊張(きんちょう)感を増す中、田舎町で静かに暮らす老夫婦を通し、核兵器の恐(おそ)ろしさを伝えています。

 ラジオ放送で戦争が始まったことを知った夫婦は、政府のマニュアル通りに、部屋の壁にドアを立てかけて「核シェルター」を作ります。こんな物で核兵器の被害(ひがい)を防げないことくらい、広島で暮らす私は知っています。

 しかし、真面目な2人は政府を信じていました。核ミサイルが3分後に着弾(ちゃくだん)するという放送を聞いても、洗濯物(せんたくもの)や、オーブンで焼いているケーキのことを心配する姿は、あまりにも滑稽(こっけい)で哀(あわ)れです。

 さらに核爆発の後も、放射線の恐ろしさを知らない2人は庭で日光浴をし、雨水を沸(わ)かして作ったお茶を飲みます。放射線の影響(えいきょう)で体調が悪くなっても政府の助けを待ち続け、励(はげ)まし合う2人に、本当に胸が痛みました。

 国が始めた戦争なのに、なぜ善良な人が死んでいかなければならないのでしょうか。たくさんの情報が得られる現代でも、もし核兵器が使われたら私たちになすすべはありません。悲惨(ひさん)で残酷(ざんこく)で、そして不条理な戦争がこの世界からなくなる―。そんな日が一刻も早く訪れることを願ってやみません。(中3佐藤茜)

(2017年11月27日朝刊掲載)

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