[ジュニアライターこの一作] 「ヒロシマ 歩きだした日」(那須正幹著)
17年10月2日
生活の糧 お好み焼き
戦後の広島で、3世代にわたってお好み焼き店を切り盛りする女性の生き方を描(えが)いた「ヒロシマ3部作」の1作目です。原爆で夫を失った市橋靖子が、当時まだ珍(めずら)しかったお好み焼き店を開くまでを追います。
物語は被爆4年後から始まります。復興しつつある広島で靖子は両親や娘と平穏(へいおん)な生活を送っているように見えますが、自らの足にはケロイドが残り、家庭で交わす何げない会話の端々(はしばし)にも原爆の記憶が見え隠れし、爪痕(つめあと)は深く残ります。「あの日」を決して忘れられない人々の姿が浮(う)かび上がってきます。
靖子がお好み焼き店を開いたのは父も亡くなり、一家を背負うことになったからです。「娘が成人するまでは絶対にのれんをおろすまい」と固く決意。たくさんの困難を乗り越(こ)える姿は力強く、たくましいです。多くの人たちが前を向いて努力してきたからこそ、今の広島が成り立っていると実感しました。
会話のほとんどが広島弁なので親しみが持てると同時に、すぐそばで聞いているような気がします。お好み焼きのおいしそうな描写(びょうしゃ)もたくさんあり、読み終えた後は食べたくなるはずです。ソースの香りの向こうに、ヒロシマの歴史や人々の積み重なる思いを感じ味わってみませんか。(中3目黒美貴)
(2017年10月2日朝刊掲載)