×

ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「綾瀬はるか『戦争』を聞く」(TBSテレビ「NEWS23」取材班編)

細やか描写 しみ入る

 体験者が言葉を詰(つ)まらせたり、涙(なみだ)をこらえたりする場面が細かく描写(びょうしゃ)されています。広島出身の俳優、綾瀬はるかさんが戦争体験者や東日本大震災の被災者に会った様子をつづった本です。広島、長崎、沖縄、ハワイ、東北を巡(めぐ)り、相手と交わす一対一の話し言葉が分かりやすく心にしみます。

 最も印象に残ったのは、真珠湾攻撃(こうげき)に参加し亡くなった男性と婚約(こんやく)した女性が、綾瀬さんと米ハワイに足を運んだ内容でした。「憎(にく)たらしいっ、アメリカ人を見てたら」。そうもらしていた女性は、米国側の被害や、日系移民が戦後抱(いだ)いた複雑な思いを知るにつれ、戦争の悲惨(ひさん)さそのものに目を向けるようになりました。男性の飛行機が墜落(ついらく)した現場を訪れ、ようやく「対面」できた場面で締(し)めくくられます。

 私は、被爆者が「米国を憎く思わない」と答える場面をテレビや新聞でよく見てきました。しかし実際は当初持っていた「憎い」という感情が、時間の経過や周囲の人々の気持ちによって徐々(じょじょ)に変わっていったのではないかと感じました。日本の被害だけでなく、戦争が生み出す悲劇が広く伝わります。(高3山本菜々穂)

(2017年5月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ