Peace Seeds ヒロシマの10代がまく種(第43号) フェアトレードって何?
17年4月20日
小さな選択 世界に影響
最近、「フェアトレード」という言葉を時折耳にするようになりました。「公正な貿易」を意味する英語です。発展途上国(とじょうこく)で生産された食べ物や日用品を、安く買いたたくことなく適正な価格で、しかも継続(けいぞく)して買っていこう、という貿易の仕組みを言います。途上国の労働者が、格差や貧困、効率優先の大量生産も引き金となって起こる環境破壊(かんきょうはかい)に苦しむことなく、自立して暮らせることを目指しています。
中国地方に住む私たちの周りには、想像以上にフェアトレード商品を扱(あつか)う企業(きぎょう)やスーパー、商店があります。途上国支援という社会貢献のため、あるいは手仕事の製品にほれ込んで、など目的はさまざまです。ジュニアライターたちは、生産現場で働く人たちの姿も思い浮(う)かべながら、中学生や高校生にもできることを考えました。
<ピース・シーズ>
平和や命の大切さをいろんな視点から捉(とら)え、広げていく「種」が「ピース・シーズ」です。世界中に笑顔の花をたくさん咲かせるため、中学1年から高校3年までの27人が、自らテーマを考え、取材し、執筆しています。
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適正価格取引 途上国を支援 植民地支配の歴史と関係
フェアトレードは、30年ほど前から国際的な非政府組織(NGO)の推進で盛んになりはじめ、日本でも10年ほど前から話題に上るようになりました。
途上国の製品が先進国の店頭に並ぶまで、普通(ふつう)は輸出、輸入、加工、卸売(おろしうり)などたくさんの段階を通ります。各段階で安く仕入れようとするほど、原価は低く抑(おさ)えられます。生産地の労働者の賃金は低くなります。そのような貿易の仕組みを根本から見直し、貧困に苦しむ人が自立して暮らせる社会を目指すのがフェアトレードです。
フェアトレードで仕入れられた商品の中には、国際的な団体の認証を得たことを示すラベルが印刷されたものがあります。児童労働に頼(たよ)らず安全な労働環境(ろうどうかんきょう)の下で生産や加工がされたことや、必ず一定以上の値段で買い取られていること、農薬使用を抑(おさ)えていること、などの基準に沿っていることを示します。
フェアトレードといえばコーヒーや綿製品、バナナやチョコレートでしょう。広島大平和科学研究センターの小倉亜紗美助教(35)によると、原産地がヨーロッパの植民地だった歴史と関係しています。支配者がプランテーションを経営し、輸出で大きな富を得た名残なのです。現地の人の主食を植える畑に転換(てんかん)する支援(しえん)も、増えています。
フェアトレード商品は値段がどうしても高めになります。2014年の日本の市場規模は100億円に満たないそうです。小倉さんは「買い物は選挙に似ています。消費という小さな選択(せんたく)でも、世界に影響(えいきょう)を与(あた)えることができます」と話します。お小遣(こづか)いに合わせ、できる範囲(はんい)で取り入れるのは中高生にもできそうです。(高3山田千秋)
広島市佐伯区のラボテック
紅茶輸入販売 現地視察も
ラボテック(広島市佐伯(さえき)区)は水質や大気の検査をしたり、そのための機器を開発したりする会社です。意外ですが、ケニアからフェアトレード紅茶を輸入、販売(はんばい)する部署もあります。
ケニアと縁(えん)がある役員がいたのをきっかけに「ビジネスを通して途上国の人たちの生活を支援(しえん)したい」と2009年に始めました。担当の山広敏子さん(42)と上司の山田寛さん(49)は昨年、ケリチョという産地に出かけ、茶葉を手摘(づ)みする作業や、加工場を視察。生産や品質管理の現状を確認できました。
山広さんが入れた紅茶は香(かお)り高く、こくがあるのに雑味が少ないことに正直驚きました。兵庫県の工房(こうぼう)で紅茶のどあめも作ってもらっています。ケニア紅茶を分析(ぶんせき)すると抗菌(こうきん)作用があるカテキンが多めであることなどが分かり、商品アイデアにつながりました。
苦労もあります。箱がつぶれていたり、紅茶の粉が漏(も)れ出たりすることがあるのです。ケニアでは「中身は同じ」と気にされません。改善を粘り強く要請し、日本の消費者のニーズを伝えています。フェアトレード自体の認知度がまだ十分ではなく、売上げ増の課題になっています。
紅茶はインターネット通販(つうはん)や、生協ひろしまで扱(あつか)っているほか、なぎさ公園小(佐伯区)などの学校文化祭でも販売しています。ティーバッグは日常使いと高級品があり、税抜き25個入り300円と15個入り600円。2人は「販路(はんろ)をもっと広げたい。継続的(けいぞくてき)な事業でこそ生産者を支えることになるから」と話します。(高1川岸言統、中3目黒美貴)
広島市西区のフレスタ
有機コーヒー 理念と合致
スーパーのフレスタ(広島市西区)は、広島、山口、岡山で展開している54店でアフリカのエチオピアや中米グアテマラのコーヒー豆を販売しています。170グラム入りで約700円。一般(いっぱん)の商品の約1・5倍の値段ですが、加工食品部長の長谷部健治さん(41)は「有機コーヒーとしても高付加価値がある」と説明します。
「公正な取引」や「環境(かんきょう)にやさしい」などの点が企業理念と共通している、と2006年に小川珈琲(コーヒー)(京都)から仕入れを始めました。売れ行きは年間5千袋(ぶくろ)程度ですが、食品バイヤーの大坪(つぼ)功さん(53)は「発展途上国の生産者を応援したい」と力を込(こ)めます。
チョコレートや紅茶などの商品を増やしたいそうです。スーパーでもっと扱えば多くの人の目に留まると思います。フェアトレードという企業の社会貢献(こうけん)を通して、私たちの暮らしと途上国がつながっています。(高2沖野加奈)
東広島の暮らしの店en
綿製品 デザイン・質に注目
最近、女性の間で人気のあるおしゃれなデザインのフェアトレード商品を扱う店も増えています。その一つが東広島市西条朝日町にある「暮らしの店en」です。PeopleTree(ピープルツリー)というブランドの赤ちゃんの服などを置いています。
インド綿は肌触(はだざわ)りが良く、農薬使用を抑(おさ)えているという安心感もあるそうです。チョコレートは、暑いと溶(と)けるので冬限定です。自然素材を使っていることも、フェアトレード商品の特徴(とくちょう)だといいます。
店長の小見映子さん(55)は「フェアトレードは途上国への募金(ぼきん)と同じ、と考えるなら違(ちが)います。素晴らしい手仕事の品も多い。質に納得し、商品を好きになってもらうことが途上国支援にもなります」と語っていました。(高2岡田輝海)
(2017年4月20日朝刊掲載)
取材後あらためてケニア紅茶を購入しました。送られてきた紅茶には取材でお会いした山広さんからの手紙が同封されていました。取材に対する温かい言葉が添えられてあり、取材して良かったと思いました。このような心づかいのある会社だからこそ、フェアトレード商品を扱うことができるのだと強く感じました。フェアトレードは生産者と販売者と消費者の信頼で成り立つ、とても難しく時間がかかるけれど積極的平和の第一歩であることを確信しました。(高1川岸言統)
フレスタへの取材を通して、フェアトレードをぐっと身近に感じました。広島大の小倉先生が授業をしてくださった際、試食させてくれたチョコレートもやさしい甘さで美味しかったです。パッケージがおしゃれなものも多く、割高でも少し特別な時やプレゼント用に選びたくなりました。魅力のある商品ばかりだったので、社会貢献という考えだけでなく、美味しさやデザインを理由に幅広い世代の多くの人に手にとってほしいです。(高2沖野加奈)
試食したフェアトレードのチョコレートは、添加物が入っていないためか舌触りがよく、まろやかでやさしい味がしました。フェアトレード商品は単に公正に取引がされているだけだと思っていたので、おいしさや品質の高さに驚きました。これからは「フェアトレードだから」ではなく、「品質が良いから」商品を買おうと思います。(中3目黒美貴)