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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「八月の青い蝶」(周防柳著) 心の内 想像する力を

 戦中戦後の広島を生きた主人公の亮輔を描(えが)いた小説です。ストーリーは、終戦から65年後の8月から始まります。病床(びょうしょう)の亮輔が死の直前に思い出したのは、戦時中に好きだった希恵と過ごした日々でした。

 1945年8月6日朝、2人はチョウの羽化を見る約束をしていました。しかし亮輔は建物疎開(そかい)作業のため行けず、川べりで待っていた希恵は原爆によって命を落とします。自分だけ助かったと後悔(こうかい)の念に襲(おそ)われる亮輔は、目の前に現れた青いチョウを希恵の生まれ変わりと信じ、標本にして大切にし続けました。

 羽の一部が欠けたチョウは、原爆で傷ついた希恵と重なります。原爆や戦争の記憶(きおく)と切り離せない希恵との思い出―。亮輔は彼女の分まで生きようと心に決めました。しかし後ろめたさと自己肯定(こうてい)の間で悩(なや)む日々は、きっと息苦しいものだったでしょう。だからこそ、全てまとめて心の内にしまい込み、自分の中の「歴史」として封印(ふういん)するほかなかったと、私は思います。

 今もなお、自分の体験や思いを語ることのできない被爆者がいます。心の内には、もしかすると亮輔のような複雑な思いがあるのかもしれません。この小説を読み、心の内を想像する力と姿勢が必要だと気付かされました。(高1松崎成穂)

(2017年2月27日朝刊掲載)

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