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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 黒い雨(井伏鱒二著)

身近な橋 被爆の傷跡

 広島で被爆した主人公の閑間(しずま)重松は、同居するめいの矢須子(やすこ)に縁談(えんだん)の話が来るものの、矢須子が被爆しているとのうわさで破談になるのを心苦しく思っていました。そこで、被爆していないことを証明しようと被爆当時、矢須子が書いた日記の清書を始めます。重松の日記も含(ふく)め、ヒロシマの惨状(さんじょう)を考える物語です。

 広島の地名が多く出てきます。特に印象的だったのは被爆当日の御幸(みゆき)橋の様子。「欄干(らんかん)が一本もない」「橋の下にも人が数体にわたって流れていた」。具体的に記されています。

 通学や買い物、習い事などでほぼ毎日、御幸橋を渡(わた)っています。この作品を読んでから、通りながら当時の様子を想像するようになりました。

 御幸橋は、当時の親柱(おやばしら)や欄干の一部が今も残されており、被爆から今日まで、多くの人の人生を見てきました。被爆建物と同様、御幸橋の存在は、原爆を過去のものでなく今、未来へとつなげてくれています。(中3鬼頭里歩)

(2017年2月14日朝刊掲載)

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