[ジュニアライターこの一作] 「すみれ島」(今西祐行・文、松永禎郎・絵)
16年12月19日
優しい心育てた決断
物語の舞台(ぶたい)は太平洋戦争末期の日本です。九州南部にある小学校の上を、よく飛行機が飛んでいました。子どもたちは、飛行機に乗る兵隊たちにスミレの花束を届け、兵隊からは「スミレで遊んでとても楽しかった」という手紙が来ました。
しかしその飛行機は特攻(とっこう)機で、手紙をくれた兵隊はもうこの世にはいないのです。先生は涙(なみだ)ながらに、悲しい真実を子どもたちに伝えました。
それを伝えるべきか、先生はかなり悩(なや)んだと思います。もし私が先生の立場だったら、子どもたちが衝撃(しょうげき)を受けてしまうので言わないと思います。しかし先生は、戦争には人の命を次々奪(うば)う残酷(ざんこく)な一面があると教えたかったのでしょう。とても勇気のある決断だと思います。
事実を知って以降も、子どもたちは毎日スミレを摘(つ)み、兵隊たちに贈(おく)りました。少しでも穏(おだ)やかに最後の夜を過ごしてほしい。子どもたちの小さな優しさに、胸が熱くなりました。
たくさんの兵隊が特攻機にスミレを持って飛び立ち、そのうちの数機は故障で無人島に墜落(ついらく)しました。戦後、その島にはスミレが一面に咲(さ)き、「すみれ島」と呼ばれるようになりました。先生の決断から生まれた子どもたちの温かく優しい心が、兵隊たちに、そして遠く離(はな)れた地に届いたのでしょう。(中2目黒美貴)
(2016年12月19日朝刊掲載)