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ジュニアライター発信

Peace Seeds ~ヒロシマの10代がまく種 (第64号) ヒロシマ土産 何を買う?

 被爆地広島を訪れた観光客の皆さんは、どんな「ヒロシマ土産」を、どんな思いで買うのでしょうか。

 海外から訪れる人も増えています。中国新聞ジュニアライターは、平和記念公園に来ていた外国人観光客にインタビューし、どんなものが欲しいのか聞いてみました。何が売れ、どんなグッズが新たに生まれているのかも探りました。

 お土産を誰かにあげれば、ヒロシマで感じた思いを相手に伝えることができます。単なる商品ではなく平和を発信する重要な役割を果たしているのではないかと思いました。

<ピース・シーズ>
 平和や命の大切さをいろんな視点から捉(とら)え、広げていく「種」が「ピース・シーズ」です。世界中に笑顔の花をたくさん咲かせるため中学、高校生21人でテーマを考え、取材し、執筆しています。

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持ち帰って 平和願う心

平和公園で外国人に聞いてみました

「折り鶴の現物欲しい」声多く

 平和記念公園を訪れた外国人に、どんなお土産を手に入れたいかをジュニアライター6人で聞きました。10カ国の15人・組が協力してくれました。

 カナダ、米国、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、ロシア、シンガポール、カタール、フランス、ハンガリーの人たちです。最も多かったのは折り鶴の現物が欲しいという人たちで、4人・組いました。

 その理由は「平和の象徴(しょうちょう)だから」や「平和を促進(そくしん)するのに大切だから」などでした。使い道は「人に渡してヒロシマでの経験を伝えたい」や「いつでも見られる重要な場所に置く」など。佐々木禎子さんと折り鶴のイメージが、世界に広がっていることをうかがわせます。

 折り鶴は平和記念公園を訪れる人たちが作ってくるものだと思っていました。しかし被爆地を訪れる外国人にとっては持ち帰りたいものなのかもしれません。ヒロシマを思い起こさせる「リマインダー」の役割も果たしているのでしょう。

 「買った本を人にあげ、核兵器による恐怖(きょうふ)を共有したい」「原爆ドームの置物を通し、悲劇だけでなく復興を諦(あきら)めない気持ちを伝えたい」といった意見もありました。また品物を買う、というより自分で撮(と)った写真や、原爆資料館での経験を共有したいという声もありました。

 ヒロシマから世界に持ち帰られる土産には、たくさんの思いが込められています。同じものでも、人によって持つ意味が変わることが分かりました。(高3岡田実優、池田穂乃花、高2平田佳子、鬼頭里歩、中2林田愛由、岡島由奈)

新ブランドも生まれてます

手にした人を優しい気持ちに 「アース・ヒロシマ」手掛ける牛来さんに聞く

 広島県内の製造業者とデザイナーが連携(れんけい)し、平和への願いを込めた土産物のブランド「アース・ヒロシマ」があります。このブランドを手掛けるソアラサービス(広島市中区)の社長、牛来(ごらい)千鶴さん(55)から話を聞きました。

 きっかけは30代の時に目にした8月6日の平和記念式典の様子でした。多くの人が平和を祈る姿に衝撃(しょうげき)を受けました。一方で、平和記念公園の外は買い物をする人たちでにぎわっていて「その境界線をなくしたい」と考えたのです。

 ブランド展開を始めたのは2016年です。商品はプラスチック製の折り鶴キーホルダーやイヤリング、折り鶴のイラストをあしらった熊野化粧(けしょう)筆など30種類以上。手に取りたくなるようなかわいいものばかりです。

 被爆2世でもある牛来さんは「手にした人が優しい気持ちになり、普段の生活の中で平和のことを思い出すきっかけにしてほしい」と商品への思いを話していました。土産物は平和を発信する一つの方法だと思いました。「記念に」と買い求めるのではなく、込められた思いを感じ取ることが大切です。(高3池田穂乃花、中2岡島由奈)

取り扱いは230種類

 原爆資料館のミュージアムショップには連日、たくさんの来館者が訪れます。広島平和文化センターが運営し、本やDVD、Tシャツなど約230種類を扱(あつか)っています。2017年度の1番人気は「折り紙」で、折り鶴に関係したものがよく売れました。

 同センターがショップを引き継(つ)いだ1983年度は図書や絵はがきなどが売られていました。その後、品物の種類が広がりました。最近は折り鶴の再生紙を使った商品も増えています。同センター総務課の伊藤彰紀課長補佐(ほさ)(47)は「帰ってから土産を見て資料館を見学したことを思い出し、平和への思いをはせてほしい」と話します。

 06年からは館内にポストが置かれ、ショップで買ったはがきを原爆慰霊碑などの消印を付けて家族や友人に送ることもできます。本人が平和への思いを深めるのはもちろん、受け取る人へも平和のメッセージを伝えられると思いました。(高1目黒美貴)

ヒロシマ土産の原点は

被爆者の故吉川さん ドーム近くで絵はがき販売

 「ヒロシマ土産」の原点は故吉川清さんかもしれません。原爆ドームの近くで1951年から、絵はがきなどを販売する記念品店を営んでいました。吉川さんが書いた本「『原爆一号』といわれて」や中国新聞の記事を読み、どんな思いだったかを調べました。

 被爆した吉川さんは入院中、背中のケロイドを見た米国人記者が叫(さけ)んだ言葉から、「原爆1号」と呼ばれました。退院後は職探しに苦労しましたが、人に勧(すす)められて記念品店を始めました。初日は250円の売り上げ。米や野菜を買って被爆後、初めておなかいっぱい食べたそうです。

 観光客にケロイドを見せ、原爆の悲惨(ひさん)さを訴(うった)えました。「原爆を売り物にしている」と批判も受けましたが、「(原爆を)売りまくって核をのろうのだ」と反論しました。吉川さんは広島では初の被爆者組織を結成し、被爆者運動に積極的に取り組んだことでも知られていました。戦後間もない時代を必死で生き抜いた吉川さんにたくましさを感じました。(高1目黒美貴)

(2019年1月17日朝刊掲載)

【編集後記】
 被爆地広島のお土産は、単純に旅の記念や報告だけでなく、ヒロシマで感じたことをどうやって思い出すのか、渡す人に何を伝えたいのか、という意味が含まれていると感じました。

 これから海外を訪ねる機会があれば、自分なりにヒロシマのことを伝えられるお土産を選びたいと思いました。(岡田)

 原爆資料館の前で、外国人に初めて声を掛けるときは緊張しました。自分の英語を聞き取ってもらえるだろうかと思っていましたが、みんな親切に対応してくれて安心しました。ある一人の女性が一番印象に残っています。アンケートを書いている途中に涙を流していたのです。一人でも多くの人に被爆地広島や資料館を訪れてほしいと思いました。(池田)

 私にとって、今回のお土産の取材は新鮮でした。外国人は何を主に買うのか、違いがあるのかなどについて興味があったことに加え、ジュニアライターとしてこれまで英語で取材する機会が少なかったからです。

 何か物を買って帰るという人がほとんどだと思っていましたが、自分で撮った写真をお土産にしたいという人もいました。しかし、平和の思いを込めるという点は共通していると思いました。私の拙い英語を聞いてくれ、頑張れと励まして下さった外国人の皆さんに感謝したいです。(平田)

 被爆地広島のお土産は以前から調べてみたいと思っていたテーマでした。なぜなら私自身が海外に行く際、どんなお土産を持っていけばヒロシマのことを伝えられるだろうかと毎回、暗中模索していたからです。

 今回のインタビューでは、折り鶴や原爆ドームの置物など、広島を象徴するものを買いたいという意見を聞きました。お土産を通してヒロシマで感じたことを伝えたいという声もあり、「平和の輪」の広がりを感じました。(鬼頭)

 取材で最も印象に残ったのは、外国人にとっても折り鶴が平和の象徴であることです。自分で折り鶴を折ることができるという人もいました。原爆資料館の土産物売り場では、折り鶴がモチーフとなっているものが多く売られていました。世界でどのくらい折り鶴が平和のシンボルとして知られているのか調べてみたいです。(林田)

 牛来千鶴さんの取材が心に残っています。牛来さんの「やりたいと思ったら必ず実現させる」という強いパワーを感じたからです。私はよく、「やりたい」と思ってもすぐに諦めてしまいます。ですが、牛来さんの話を聞き、いくら時間がかかっても、初心を忘れずにやり遂げることが大事だと感じました。

 また、「世界中の人に平和を感じてほしい」という牛来さんの思いにも心から感動しました。牛来さんが平和への思いを商品に込めるように、私も文章に平和への思いを込めたいです。(岡島)

 広島で生活する私にとってお土産はなじみが少なく、今回の取材までは原爆資料館のミュージアムショップに立ち寄ったこともありませんでした。今回の取材で、お土産はヒロシマと観光客の思い出をつなぐ大切なものであることが分かりました。一度訪れただけで終わらせず、家に帰った後に少しでも被爆地広島を思い出すきっかけになってほしいです。(目黒)

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