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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] 平和記念式典縮小 コロナ禍 慰霊の祈りは不変

 今年は被爆75年の節目です。かつて「草木も生えない」と言われたこともある広島は、復興し平和都市に生まれ変わりました。新型コロナウイルスの感染を防止するため、広島市が8月6日に平和記念公園(中区)で営む平和記念式典は縮小して開かれます。式典がどうなるのかを取材し、変わらぬ思いで自分たちにできる慰霊(いれい)について考えました。

運営への配慮

感染防止と三つの使命 両立

 今年の式典は、いつもとかなり違(ちが)った様子になります。会場設営の準備が始まる直前の平和記念公園で、市民活動推進課の山根孝幸課長(55)に聞きました。

 被爆75年の今年、広島市には世界へ平和を発信したいという特に強い思いがあるそうです。感染防止と、式典の開催(かいさい)をどう両立させるか、担当者たちは方法を探りました。政府の緊急(きんきゅう)事態宣言が5月終わりに解けてから、本格的に方針を決めていきました。

 式次第に込(こ)めた「慰霊、平和の祈念(きねん)、次世代継承(けいしょう)」という市の三つの使命は守り、ほぼ同じ内容を今年も予定します。ただ、毎年公園の芝生(しばふ)の上にぎっしりとパイプ椅子(いす)を並べますが、今年は席の間を2メートル離(はな)すことにしました。感染を防ぐため、880席しか置きません。例年の1割です。

 一般(いっぱん)席をなくし、政府代表者や一部の被爆者など、あらかじめ決まった人たちだけ参加します。入り口で消毒や体温測定もします。計600人近くで行う合唱、合奏や、空にハトを飛ばすこともやめます。

 山根課長は「多くの人たちに参加してもらえないのは心苦しいが、個人でできることをお願いしたい」と話し、テレビ中継(ちゅうけい)や動画投稿(とうこう)サイト「ユーチューブ」で見守ってほしいと呼び掛けました。

被爆者の思い

「節目 世界中から参加してほしかった」

 被爆者は、どのような気持ちで被爆75年の8月6日を迎(むか)えるのでしょうか。梶本淑子さん(89)=広島市西区=が、被爆体験を交えて思いを話してくれました。

 梶本さんは、被爆体験の証言活動を始めた2001年からほぼ毎年、式典に参加しています。高齢(こうれい)になり2年前から会場に行くのはやめましたが、今年は自宅のテレビで「一緒(いっしょ)に参加した気持ち」で見るそうです。

 安田高等女学校(現安田女子中高)3年だった14歳の時、学徒動員先の三篠町(現西区)の工場で被爆しました。意識が戻(もど)りやっと外へ逃(に)げ出すと、ひどい臭(にお)いです。自分も血だらけでしたが、動けない友達を担架(たんか)に乗せ、北側の大芝公園へ何度も運びました。

 公園は「魚を並べたように」けが人や死んだ人で埋(う)まりました。忘れたくても忘れられない光景です。

 自分を捜(さが)しに来た父が1年半後に亡くなり、母も入退院を繰(く)り返し、自分が一家を支えた体験もつらい記憶です。それでも8月6日は、式典が始まる前の早朝に、夫と一緒に原爆慰霊碑へ参りました。「この日は死んだ人たちのことを静かに、精いっぱい考えたいのです」と話します。

 夫が20年前に亡くなった後、孫の勧めで証言活動を始め、式典にも行き始めました。今年の縮小は「仕方ないが、節目だからこそ世界中の人に来てもらいたかった」。その分、広島市長が読み上げる平和宣言に「国内外へ、核兵器廃絶(はいぜつ)を求める強い発信を」と願っています。

 演劇や絵など、それぞれの得意分野で原爆を伝える10代にも期待しています。「しっかり学び、平和のため努力してほしい」と励(はげ)ましの言葉をもらいました。

過ごし方

身近な行事に関心を持って

 式典に直接行けなくても、原爆で亡くなった人や苦しんだ人たちへの思いを表すことはできます。式典の歴史に詳(くわ)しい元広島女学院大教授の宇吹暁さん(73)=呉市=にビデオ会議システムを使って聞きながら、考えました。

 宇吹さんは式典の歴史を探る中で「式典以外の行事が多様化した」と気付きました。「とうろう流し」のように毎年の慰霊行事に加え、アーティストが企画(きかく)し若い人も参加できるイベントが増えました。

 そんな8月6日周辺の行事が、今年は「3密」を避(さ)けるため減る見通しです。宇吹さんは「残ってほしいイベントまで今後消えるのでは」と心配します。

 一方で「こんな時こそ学校や職場など身近な場所での行事に関心を持って」と提案します。午前8時15分に、それぞれの場所で黙(もく)とうすることも、誰(だれ)でもできます。当たり前だったことが難しくなっている今、自分自身でできる慰霊を考える機会が訪れています。

私たちが担当しました

 この取材は、高3伊藤淳仁、庄野愛梨、及川陽香、高2風呂橋由里、高1桂一葉、岡島由奈、四反田悠花、中3中島優野、三木あおい、中2山瀬ちひろ、武田譲、中1森美涼、吉田真結、中野愛実、相馬吏子が担当しました。

(2020年7月27日朝刊掲載)

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