×

ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] 「草の根」活動 若者の活躍

 戦争や核兵器のない平和な社会を築(きず)こうと頑張(がんば)っている若者がいます。国際舞台(こくさいぶたい)で意見を発表したり、平和イベントを開いたり…。積極的に行動する姿は周りの共感を呼び、時に世界を動かす力になります。中国新聞ジュニアライターの中高生は、広島とつながりながら各地で「草の根」の活動を続ける人たちを取材。進学したり社会人になったりしてからも、平和をめぐる問題に関心を持ち続けることの大切さを学びました。

紙面イメージはこちら

ユース担当国連事務総長特使 ジャヤトマ・ウィクラマナヤケさん

政治に関わる権利 私たちにも

紛争経験し行動 政策立案も

 外務省の招(まね)きで2月中旬に来日したユース担当国連事務総長特使のジャヤトマ・ウィクラマナヤケさん(29)に、話を聞きました。

 特使の役割(やくわり)は、若者に市民や政治活動への参加を促(うなが)し、支援することだそうです。アントニオ・グテレス事務総長に若者の視点(してん)から助言(じょげん)したり、国際会議で紛争(ふんそう)や貧困で苦しむ子どもたちの現状を訴(うった)えたりしています。

 私たちは「平和のためになぜ若者が積極的に行動する必要があるのか」と尋(たず)ねました。ウィクラマナヤケさんは、世界人口の約半数が30歳以下で、10~24歳が約18億人いるという統計を教えてくれました。「若者は市民や政治活動に関わる権利がある。自ら声を上げて意見を反映(はんえい)させてほしい」と話しました。

 母国スリランカで19年間も民族紛争の下で暮らした経験が、行動を起こしたきっかけでした。教育の機会を奪(うば)われることなく平和な環境で暮らすにはどうしたらいいのか、考えたそうです。学生時代にはスリランカ政府の政策づくりに携(たずさ)わりました。

 「ヒロシマの歴史を踏(ふ)まえながら、戦争と荒廃(こうはい)に戻(もど)らないよう世界のリーダーに問うてほしい」というウィクラマナヤケさんの言葉が心に響(ひび)きました。未来を生きるのは私たち若い世代です。平和な社会を築くための選択(せんたく)を大人任せにせず、自分の意見を持って行動していこうと思います。

カクワカ広島・慶応大1年 高橋悠太さん

核政策 有権者へ情報発信

 慶応大法学部1年の高橋悠太さん(19)は、盈進(えいしん)中高(福山市)のヒューマンライツ部で核兵器廃絶や人権問題に取り組みました。大学に進学してからも、広島とのつながりを持ちながら平和活動に力を入れています。今回、東京と広島をテレビ電話でつなぎました。

 広島選出の国会議員に直接会って核兵器問題に対する考えを聞く「核政策(かくせいさく)を知りたい広島若者有権者の会(カクワカ広島)」を昨年1月に設立しました。共同代表として、選挙で有権者(ゆうけんしゃ)の意思決定に役立つような情報を発信しています。

 今年2月には、ノーベル平和賞を受賞した市民団体「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のパリフォーラムに参加。フランスで各国の同世代と意見を交わし「草の根活動の大切さをあらためて学んだ」と振り返りました。

 広島を外から見たいと思い、県外の大学に進学した高橋さん。東京で友人に核問題に対する考えを話すと「意識が高いね」と言われて会話が終わることが多いそうです。そこで自分の思いを伝えるだけでなく「対話」を心掛けて、相手が関心を持っていることも共有しているといいます。

 高橋さんは「人との出会いやつながりを絶(た)やさずに、できる範囲(はんい)で一緒に平和を発信し続けよう」と呼び掛けました。

ナガサキ・ユース代表団

被爆者の思い継承し世界へ

 被爆地長崎で、大学生たちが平和活動に取り組んでいます。「ナガサキ・ユース代表団」の8期生7人が研修旅行で広島を訪れた2月に取材しました。

 原爆被害や核軍縮について勉強会を続けています。目標は、ニューヨークの国連本部で開かれる核拡散(かくかくさん)防止条約(ぼうしじょうやく)(NPT)再検討会議(さいけんとうかいぎ)です。長崎県、長崎市、長崎大でつくる協議会の派遣団として、現地でイベントを開く準備を進めてきました。

 テーマは「人類みなヒバクシャである」。原発や核兵器が存在する現代に生きる誰もが被害者になり得る、という意味です。長崎大2年の岩高史織さん(20)は「被爆3世として被爆者から受け継(つ)いだ思いを発信したい」と話します。長崎大4年の川村和輝さん(22)は、核保有国の米国に住んだ経験から、核問題に関心を持つようになったそうです。

 メンバーの「現在の問題を考える時、歴史にも目を向けよう」という言葉が印象的でした。原爆について意見の違(ちが)う人と語り合う時に大切なことだと思いました。

 この取材の後、新型コロナウイルスの感染(かんせん)が広がりました。4月27日からの再検討会議は延期(えんき)だそうです。長崎県立大2年の谷口萌乃香さん(20)に電話すると「残念ですが、イベントの内容をさらに高めて違う機会に発表したり、小中学校での『平和出前授業』を開いたりする活動を続けます」と話していました。どんな状況でも頑張ろう、という思いが伝わってきました。若い世代の発言と行動が、平和のバトンになって手渡されていきます。

私たちが担当しました

 今回の取材は、高3川岸言統、鬼頭里歩、高2及川陽香、斉藤幸歩、目黒美貴、フィリックス・ウォルシュ、中3岡島由奈、桂一葉が担当しました。

(2020年3月30日朝刊掲載)

【取材を終えて】

 ウィクラマナヤケさんの「ヒロシマの若者として、平和な世界を実現するためのリーダーになってほしい」という言葉が心に残りました。広島で育ったものとして、これからも戦争の悲惨さと平和の尊さを発信し続けていきます。また、未来を創造する者として、社会の諸活動に積極的に参加していきます。SDGsの17の目標と自身の行動を結び付け、世界平和の実現に向けた一助を担いたいです。(高3鬼頭里歩)

 原爆投下から75年が経ち、戦争の記憶が風化していくなか、私たち若者が戦争という悲惨な出来事を忘れられぬよう行動を起こさなければなりません。ウィクラマナヤケさんは「ヒロシマの出来事を通して、世界のリーダーに戦争について投げかけています。ヒロシマは戦争の悲惨さを語り継ぐために積極的に平和のメッセージを拡散しなければならないと実感しました。ジュニアライターを卒業し、社会に出ても、自分に何ができるのかを考え、行動していきます。(高3川岸言統)

 広島から離れても、積極的に平和活動を続けている高橋さんに刺激を受けました。一つの活動で得た人とのつながりを大切にすることが新しい活動につながるという話は、ジュニアライターの活動にも当てはまります。取材を通して得た多くの知識、経験、出会いを、これからも活かしていきたいです。(高2目黒美貴)

 高橋さんは他者と話すとき、「対話」することを大切にしています。ただ自分の考えを伝えるだけでなく、相手の主張を聞いてより広い視点を持つことが新たな学びにつながります。私も、これまでに出会った人やこれから出会う人のことを理解する姿勢を常に持ち続け、人とのつながりを大切にしていきたいです。(高2斉藤幸歩)

 「平和系のことを友達に話した時のリアクションが本当に面白い」と笑顔で話す高橋さんに、心から驚きました。私は高橋さんとは真逆で、友達のリアクションが怖くて、なかなか平和について話すことができないからです。でもそれでは、本当は核廃絶などに少し興味がある人との出会いを見逃してしまうことになると、高橋さんの取材を通して感じました。「引かれたら話題を変えれば良い」など、アドバイスも頂いたので、新年度から少しずつ、友達に平和について話してみようと思います。(中3岡島由奈)

 今回の取材で、私はナガサキユース代表団を取材しました。バックグラウンドが違う一人一人がそれぞれの思いを胸に発言をしていることがとても印象深く残っています。取材の中でメンバーが特に訴えていたことがありました。それは平和活動に関する「意識」のことです。最初から平和活動をするということは、難しいと感じるかもしれません。ですが、「最初は自分で“平和って何だろう”と考えるところからでもいい」といいます。そこから、少しでも平和や戦争の悲惨さ、歴史を知っていくことで平和活動につながる第一歩だと思いました。そうすることで、次の世代につなげていくことができます。(高2及川陽香)

年別アーカイブ