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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] 伝える 核の恐ろしさ 「ヒロシマの案内人」

 新型コロナウイルスの感染者数が比較的落ち着いていることもあり、広島市中区の平和記念公園には人通りが少しずつ戻ってきています。修学旅行生や観光客をガイドするさまざまな個人や団体の活動も、増えています。どのようにガイドしているのでしょうか。中国新聞ジュニアライターは今回、三つのグループを取材しました。

ピースボランティア

原爆の惨禍 展示を解説

 原爆資料館のピースボランティアは、館内の展示や平和公園内の慰霊碑(いれいひ)を案内しています。新型コロナの感染対策をしてきたため、館内での活動を8日に再開したばかりです。私たちは高橋規郎(のりお)さん(74)の一日を取材しました。

 東館で、米国が広島に落としたウラン型原爆「リトルボーイ」の実物大模型(じつぶつだいもけい)の前で広島大の学生7人を案内しました。プルトニウムを使った長崎原爆と材料が違(ちが)うことや、原爆開発の「マンハッタン計画」で初めて核実験をしたことなどを説明しました。原爆投下が入念に準備されていたことが説明から分かります。

 東館では、主に核兵器(かくへいき)と戦争の歴史や世界の現状について学びます。被爆死した人が着ていた服などの遺品を展示する本館では、高橋さんはガイドをせず、展示室の出口で待っていました。見学者に、静かに一人一人の犠牲者へ思いをはせてもらうためです。

 高橋さんは2020年3月から活動しています。広島大原爆放射線医科学研究所(げんばくほうしゃせんいかがくけんきゅうしょ)の客員(きゃくいん)教授で、自分の知識を生かして広島のことを伝え、役に立ちたいと思ったそうです。ピースボランティアは、事前に研修を受けて必要な知識を学びます。現在226人が登録し、被爆者、若者、学生もおりさまざまです。東京など県外から通う熱心な人も少なくありません。

 ガイドをしてもらい、核兵器の恐ろしさを、科学的な視点や戦争の歴史も通して知る機会になりました。

ユースピースボランティア

若者発 世界へ記憶発信

 広島平和文化センターが養成するユースピースボランティア(YPV)は、外国人に英語でボランティアガイドをしている広島県内の高校生と大学生48人です。私たちは12日に、34人の活動に同行しました。

 グループに分かれて公園を歩き、観光客に声を掛(か)けます。広島大3年の若菜翔(しょう)さん(21)たち4人は、英国から来たサミュエル・ボイドさん(32)とナホ・ボイドさん(39)夫妻(ふさい)を案内しました。サミュエルさんは「平和とは、お互(たが)いに思いやって助け合うことだと思います」と話しました。

 平和記念公園内での活動は、11月に再開しました。外国人観光客はまだ多くありません。広島大3年の末永琳子さん(21)たち3人は、茨城(いばらき)県から来た直井徹(なおいとおる)さん(56)を日本語でガイドしました。「若い人が被爆の実態を伝えようとする姿が素晴らしい。頑張ってほしい」と目を細めていました。広島での思い出として、喜んでもらうことがみんなのやりがいです。

 「得意な英語を生かしたい」と活動に参加した人が多いようです。悩(なや)んだり困ったりすることもあります。どう声を掛ければガイドを申し出ても断られないのか、よく考えるそうです。質問されても、答えを知らない時は「分かりません」と正直に話すことが大切だと言います。

 広島を訪れた人たちがこうして戦争と原爆の記憶(きおく)を持ち帰ることが「受け継ぐ」ことだと思いました。日本と海外をつなげる意義を感じます。さらに世界へ平和を発信するために、まずは自分たちが平和について学び、誰(だれ)にでも伝えられるようにしておくことも大切です。

 YPVは、インスタグラムなどで活動風景を発信しています。

ピース・カルチャー・ビレッジ

変わり果てた街 VRで

 NPO法人ピース・カルチャー・ビレッジ(PCV、三次市)は、VRゴーグルを借りて平和記念公園を歩き、被爆前の広島の街並みを仮想現実(VR)で体験できるツアーを行っています。

 スタッフの山口晴希(はるき)さん(28)の案内で、公園内のレストハウスから出発です。VRゴーグルをのぞき込(こ)むと、お店がにぎわう旧中島地区の街並みが見えます。タイムスリップのようです。しかし、突然(とつぜん)ピカッと光り、街は焼け野原に。原爆ドームは燃えています。一発の爆弾(ばくだん)で、全く違(ちが)う世界に変わったことが分かります。

 相生橋(あいおいばし)や原爆供養塔(くようとう)などを歩きながら、被爆時の様子をVRで確かめます。ツアー終了(しゅうりょう)後は、山口さんと振(ふ)り返りの時間を持ちます。「身近な人を大切にしたい」などと、感じたことを話しました。

 山口さんは被爆3世ですが、学生時代に海外で広島の原爆について聞かれた際、うまく説明できず悔(くや)しかったそうです。地元の歴史や平和への思いを「自分の言葉で話せるようになりたい」とPCVでの活動を始めました。

 VRの映像は、レストハウスの前身の燃料(ねんりょう)会館で地下室にいたため奇跡的に助かった故野村英三(のむら・えいぞう)さん(1898~1982年)の手記を基に制作されたそうです。大勢の人が恐(おそ)ろしい被害を受けたことと、現在の広島が焼け野原から復興したことを、歩きながら感じることができました。

 VRツアーはたびまちゲート広島が主催し、PCVが企画(きかく)、協力しています。80分間で、12歳以上3500円、6~11歳千円です。レストハウスのホームページから予約できます。

私たちが担当しました

 この取材は、高2岡島由奈、長田怜子、中3田口詩乃、武田譲、中真菜美、畠山陽菜子、中2森美涼、谷村咲蕾、中1山代夏葵が担当しました。

 取材を通して中国新聞ジュニアライターが感じたことをヒロシマ平和メディアセンターのウェブサイトで読むことができます。

(2021年12月20日朝刊掲載)

[取材を終えて]

 私は、PCVのVRツアーを体験しました。炎、瓦礫、真っ暗闇に包まれた原爆投下直後の広島を再現するVR映像の世界と、目の前に広がる美しい平和公園。それらを交互に見ていると、まるであの日と今を行き来しているような、味わったことのない気持ちになりました。山口さんは、ただ解説するだけではなく、私たちに問いかけながらガイドを進めてくださったので、知識が頭に残りやすかったです。体験を通して感じたことや知識を忘れず、今後の被爆者の方への取材にも生かしていきたいです。(高2岡島由奈)

 今回の取材で、私たちもガイドを体験しました。自分で展示を見て回るだけでは分からなかった知識まで知ることができ、とても勉強になりました。特に、今までにはなかった科学的な視点で、原爆や放射線による被害について考えることができました。

 たとえば、ガイドの高橋さんは原子爆弾「リトルボーイ」と「ファットマン」の形が違う理由や、それぞれの仕組みを丁寧に教えてくれました。展示を見るだけでは分からなかったことがすっと理解できました。

 ガイドを受ける人は、東京など県外から来るお客さんが多いそうです。でも、広島に住んでいる私たちも知らないことが、まだまだたくさんあると気づかされました。もしかしたら、広島に住む私たちだからこそ、今一度資料館を訪れ、ガイドを受けるべきかもしれません。(中3田口詩乃)

 英語で観光客をガイドする活動は、平和の発信としてとても役立っているのだと感じました。新型コロナウイルスの感染状況もあり、今回私が同行したグループでは残念ながら外国人観光客の方々に案内をすることができませんでしたが、広島市民である私も知らないところを多く知ることができました。自分の中で広島の見方が変わったと思います。(中3武田譲)

 VRを初めて体験し、映像がリアルなことにとても驚きました。被爆前の街並みの映像を見て、今と変わらない平和な日常があったのだと思いました。また、被爆直後の映像では、街が一瞬にして焼け野原になり、言葉では言い表せない気持ちになりました。被爆後から広島が復興していく映像も見ました。未来へ生きていくことを諦めなかった人々の思いが伝わりました。

 被爆者のお話を聞く平和学習も大事ですが、「自分がもし同じ立場だったら・・・」ということを深く考えられるVR体験も、とても良いものだと思いました。(中3中真菜美)

 私はユースピースボランティアを取材した中で、「日本びいきの視点ではなく、中立的な視点で説明するようにしている」という言葉が印象に残っています。私は今まで日本が被害を受けたという視点でしか平和を考えたことがありませんでしたが、その言葉を聞いて自分の視野が広がり、他の国から来た人たちの違う考えや立場も知りたいと思いました。また、ガイドの皆さんが、相手の反応を確認しながら説明したり、原稿を見ずに自分の言葉で伝えようとしたりする姿がとてもすてきでした。世界と広島が繋がる瞬間を見ることができました。(中3畠山陽菜子)

 ピースボランティアの高橋規郎さんのガイドに同行し、原爆資料館で新たな思いを持ちました。以前は展示をただ見るだけで、「核兵器を使用することは恐ろしい」としか感じませんでした。しかし、今回は核兵器が使われた背景を詳しく知ることができました。私は「なぜ人々は、世界に悪影響を与えるものを簡単に使うのだろう」と思いました。ピースボランティアの方にガイドしてもらう体験を、多くの人にしてもらいたいです。きっと、平和について考えるきっかけになると思います。(中2森美涼)

 「自分の言葉できちんと伝える」ことが大切だと感じました。ユースピースボランティアの方々は何を質問されても正確に素早く答えていました。自分も外国の方にたくさん伝えられるように原爆投下までの背景や当時の様子について、もっと積極的に調べようと思いました。(中2谷村咲蕾)

 私は今回、初めてVRを体験しました。VRの世界に入ると、実際に当時の広島にタイムスリップしたかのようでした。原爆投下前のにぎわっていた旧中島地区が、一発の原子爆弾で全く違う世界に変わってしまった様子が特に印象に残りました。燃え広がる炎、空に立ち昇る煙などが、目の前で起こっているように感じられました。「広島には75年間は草木も生えないだろう」という言葉に共感できるほどでした。そんなところからの復興は、本当に大変なものだと思います。より多くの人に、話を聞くだけでなくこのVRも体験してもらいたいです。(中1山代夏葵)

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