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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] SDGsと平和

世界の17課題 私たちで解決

 新聞やテレビ、教科書で最近目にする「SDGs(エスディージーズ)」。Sustainable Development Goalsの略(りゃく)で、「持続可能な開発目標」のことです。2015年9月に国連で決められました。世界が抱(かか)える課題を整理し、「貧困(ひんこん)をなくそう」「ジェンダーの平等を実現しよう」など17の目標で構成され、30年までに達成するよう求められています。中国新聞ジュニアライターは、SDGsへの理解を深める身近な活動を取材しました。

ユニタール広島 隈元所長

核廃絶と理念重なる

 国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所(広島市中区)所長の隈元美穂子さんに、SDGsの成り立ちを聞きました。

 2000年から15年までは、発展途上国(はってんとじょうこく)を対象とした「MDGs(ミレニアム開発目標)」がありました。16年以降については経済▽社会▽環境-の三つの側面から、すべての国の共通目標が必要だとして国連で話し合われ、SDGsが誕生(たんじょう)しました。

 SDGsの17の目標の中に「平和と公正をすべての人に」があります。

 世界の軍事費は年々増加し、ストックホルム国際平和研究所によると19年は約206兆円です。隈元さんは「これをSDGsが掲(かか)げる社会の課題解決のために充(あ)てたら、どれだけ良い未来になるでしょう」と投げ掛(か)けました。

 SDGsは193の国連加盟国の全会一致(ぜんかいいっち)で決まりました。「核兵器」という言葉は入っていません。隈元さんは「その言葉が入っていれば採択(さいたく)されていなかっただろう」と説明します。なぜなら、核保有国が反対する可能性があるからです。「しかし国連では17年に核兵器禁止条約が採択され、今年発効しました。廃絶(はいぜつ)への流れは加速するでしょう」。禁止条約の理念は「平和と公正」と重なり合います。

 SDGsの達成には、自分たちが社会を変える、という一人一人の思いが必要です。「習慣を変えることは簡単ではないけれど、不可能ではない」と隈元さんは強調していました。

目標達成への道のり体験 カードゲーム活用

 SDGsで世界はどのように変わるのか、体を動かしながら考えるカードゲームがあります。崇徳中高(広島市西区)の理科の先生で、市内の学校や企業でゲームを広めている花野木政信さん(37)に協力してもらい、ジュニアライター9人が体験しました。

 ゲームは、SDGsの17の目標を達成するために、現在から2030年までの道のりを体験していく内容です。まず、世界の経済▽社会▽環境-の三つの現状を「メーター」で表します。さらに「交通インフラの整備」などと書かれたプロジェクトのカードが配られます。

 参加者は、達成に必要な「お金」や「時間」を他のメンバーと交渉して集めます。プロジェクトを達成するたびメーターは変化し、世界の状況は良くも悪くもなっていきます。例えば、交通インフラの整備で経済は発展しますが、環境の破壊(はかい)が進んでしまいます。バランスを取ることの難しさを実感できます。

 花野木さんは「17の目標を自分のことに置き換(か)えて考えてほしい」と話しました。

 「必要な量だけ食品を買う」「マイバッグを使う」など、具体的な行動が次の一歩につながると思いました。

「気候変動止める」若者団結

広島の奥野さん SNSなどで発信

 17の目標には、気候変動の対策や海の保全に関する項目があります。日本ではどのような活動が行われているのでしょうか。若者を中心に環境活動に取り組む団体「Fridays For Future Japan」の広島支部代表で、大学1年の奥野華子さん(19)=広島市中区=に聞きました。

 スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさんの訴(うった)えに共感した東京の若者たちが、2019年から始めました。全国39地域に広がり、会員制交流サイト(SNS)へ気候変動に関する世界の現状を投稿(とうこう)したり、街中でプラカードを持って練り歩く「グローバル気候マーチ」を企画したりしています。

 19年に一人で広島支部を立ち上げた奥野さん。気候変動に対する迅速(じんそく)なアクションを求めて、市中心部で仲間たちと座り込みをしたり、オンラインイベントを開いたりしました。昨年9月には、靴(くつ)を並べて大勢の人たちが訴えている様子を表現した「シューズアクション」も原爆ドーム近くで行いました。

 SNSを活用して参加を呼び掛けています。「今すぐ行動すれば、まだ気候変動を止めることができる。前向きな気持ちで一緒に行動していきましょう」

私たちが担当しました

 この取材は、高3伊藤淳仁、庄野愛梨、フィリックス・ウォルシュ、高1岡島由奈、桂一葉、四反田悠花、中2田口詩乃、山瀬ちひろ、中1中野愛実、吉田真結が参加しました。

(2021年3月29日朝刊掲載)

【取材を終えて】

~SDGsカードゲーム体験 崇徳学園 花野木政信先生~

 SDGsのカードゲームで一番感じたことは、経済と社会と環境のバランスがよい状態を保つのが難しいことです。世界の状況メーターをみて、プロジェクトを回したかったけど、自分の利益が気になりました。どのプロジェクトもお金と時間がかかります。環境や社会を良くするための活動には経済を良くすることが必要です。時間も必要です。

 世の中の人が経済を優先するのは、自分たちの利益を増やすためで、経済活動に力を入れるのは、利益が大きいからだと分かりました。後半はプロジェクトの内容を考えながらも、環境活動をやっていたらお金がなくなってきました。経済活動を重視せざるをえなくなりました。

 経済が潤わないと環境や社会の活動は十分できないのだと思いました。経済を良くするために環境や社会のことを考えたプロジェクトをやっていく必要があると考えました。(中1中野愛実)

 今回の取材で最も印象的だったのは、「世界が目指す目標を『見える化』して共有することによって行動が変わる 」という言葉です。今までSDGsは私にとって漠然としたものでした。しかし、この言葉を聞いて「見える化」の大切さを感じ、17の目標を自分にできる具体的な活動に置き換えてみようと考えました。例えば「12、つくる責任つかう責任」なら消費期限や必要な量を意識して食品を購入する、などです。今後はこのような「My SDGs」を使ってSDGs達成に努めていきたいです。(中1吉田真結)

 今回の活動で、「見える化」というものの大切さを感じました。ゲームの中では、世界の状況をマグネットの数によって「見える化」しました。そうすることで、次やるべき行動がわかってきました。

 実際の世界でも見えないことはたくさんあると思います。大きく言えば、自分と直接関係ないことはなかなか見えません。たとえそこに問題があったとしても。しかし、もしそれを「見える化」すれば、全体のことが見えるようになり、問題共有ができるようになるのです。だから、「見える化」が大切だと私は思います。

 そして、「見える化」には新聞も一役買っています。メディアは問題を多くの人に伝えることができるからです。新聞で記事を書ける私たちもその一員として、核兵器や戦争の問題について読者の皆さんに発信してと思います。(中2田口詩乃)

 今回SDGsのカードゲームを体験してみて「SDGsの目標を達成するには時間が足りない」と感じました。1つの目標を達成することは出来るけれど、全ての目標を全世界でとなると、時間も費用もかかってとても大変なことだと分かりました。2030年までに目標を達成できるよう自分の身の回りでまだSDGsを知らない人に教える、エコバックを持って買い物するなど小さなことでも自分から行動しようと思います。(中2山瀬ちひろ)

 今回のワークショップに参加したことで、世界の状況を「見える化」すると行動が変化するなど、どうしてSDGsが必要なのか、体で学ぶことができました。「『知る』ことも大事なアクション!」という花野木先生の言葉が心に残ってきます。2020年からは、「行動の10年」だとも教わりました。世界の複雑に絡み合った問題を少しでも解決できる人になるために、まずは学校での学びを大切にしたいと思います。(高1岡島由奈)

 この広い世界での社会情勢を疑似体験としてゲームを通じ考えることで、世の中で経済.環境.社会の三側面のバランスをとることの難しさが身にしみました。環境を考えれば経済が乱れ、経済の活性化に務めると環境破壊につながる。双方が外せない条件であるからこそ、矛盾が生じることに歯がゆさを感じました。ですが、ゲームなので遊び感覚で考えることができ、今後広がるべきだと強く思います。気候変動の進行を防ぎたいという強い気持ちを持ち、環境問題をまずは意識することで社会システムを変える事ができるという花野木先生の教えを日々の生活に生かしていこうと思います。(高1四反田悠花)

~国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所の隈元美穂子所長~

 私は昨年ユニタール広島青少年大使として研修を受けました。今回の取材で、研修の中でのお話が出てきてとても懐かしく「核廃絶のために、平和のために何かしたい!」と必死だったあのときの気持ちを再び思い出すことが出来ました。日本はまだまだジェンダー平等が進んでいません。そんな中でも国連というとても大きな舞台で活躍している隈元さんがとてもかっこよかったです。取材の中で隈元さんは「慣行を変えることはできる」と言われていました。ジュニアライターとしての活動は今回が最後です。「自分たちが社会を変えるんだ!」という意識を持って2年間学んだことを今度は私が周りの人たちに伝えていきます。(高3庄野愛梨)

 「気候変動」というワードが世界に広まったのは、スウェーデンの18歳の環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんの影響力だと分かり、若い時代が声をあげることの大切さやインパクトを感じました。一方、日本の若い世代は自らの訴えで世の中を変えることは難しいのではないかという気持ちが心の片隅にある人が他国に比べ多いという調査結果もあると思いました。確かに私自身も心のどこかに実際に声をあげても意味ないのではという思いがあります。より良い社会への一歩として、ジュニアライターをはじめ日常生活での様々な経験を通じ、交渉術、コミュニケーション術を身につけていきたいです。(高1四反田悠花)

 隈元所長に取材して、交渉術が大切と教えてもらいました。何を始めるにも最初は、賛成してくれる人もいれば反対してくる人もいます。反対をしている人を無視するのではなく、ちゃんと相手がどんな意見を持っているのかをまず聞きます。そして、相手をどうしたら納得させることが出来るのか、その人たちをどのように取り囲んでいくかを考えるというのが大切だということを学びました。また、住んでいる周りの環境などを学び、相手の思いも理解できるように自分も努力する必要があると思いました。(高1桂一葉)

  ~Fridays for Future Hiroshimaの奥野華子さん~

 気候変動の取材で「ジェンダー平等」というワードを耳にするとは思っていなかったので、双方が因果関係にあると知り驚きました。土砂災害など気候変動による大きな災害が発生した際、ストレスが増えることによって、家庭内の男女の不平等や格差が深刻化し女性に対するDVが増加している現状を学びました。そこで気候変動により女性が多くの影響を受けがちな実情だからこそ、世界を変えていく場では女性の意見にもきちんと耳を傾けることが重要だと思いました。(高1四反田悠花)

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