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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] ウィーンで核兵器禁止条約会議 高校生・大学生も活躍

 6月21~23日にオーストリア・ウィーンで核兵器禁止条約の第1回締約国(ていやくこく)会議が開かれ、今後どのように条約を実行したり締約国を増やしたりするかが話し合われました。被爆者や、日本と世界の市民が各国の政府を動かして実現した条約です。「米国の核兵器がわが国の安全のため必要」とする政策を持ち、条約に入らない日本政府は残念ながら会議に参加しませんでしたが、何人もの日本の若者が渡航(とこう)しました。締約国会議と、関連する他の会議に参加した大学生と高校生に同世代のジュニアライターが聞きました。

KNT共同代表 高橋悠太さん 核被害者援助へ働きかけ

 若者グループ「ノーニュークストーキョー(KNT)」共同代表の慶応大4年、高橋悠太さん(21)は、締約国会議の他、非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))が開いた「核禁フォーラム」、オーストリア政府が主催(しゅさい)した「核兵器の非人道性に関する国際会議」などに参加しました。

 盈進(えいしん)高(福山市)を卒業し、進学先の東京でも核兵器問題を考える場を、とつくったのがKNTです。被爆者のオンライン証言会の開催(かいさい)や、国会議員に禁止条約に関する考えを聞くなどの活動をしています。

 核禁フォーラムでは、10人ほどが車座になり被爆者の話を聞く「Meet The Hibakusha(被爆者に会おう)」に加わりました。

 この間、日本政府に締約国会議への「オブザーバー参加」を求めるオンライン署名を仲間と集め、4日間で2万筆以上になりました。国際会議には日本政府の代表者が出席していたことから、署名の結果を直接見せました。しかし不参加の方針(ほうしん)は変わらず「残念だった」と話します。日本国内での活動を強める必要性を感じています。

 国際会議と締約国会議の会場で行ったのが「アドボカシー」という活動です。日本の市民が作った核被害(ひがい)者援助(えんじょ)の提言(ていげん)書を各国の代表に渡し、条約を実行に移す中で採用するよう働きかけました。チリやドミニカ共和国、フィジーの外交官に話しかけ、連絡先も交換(こうかん)しました。

 「議場の外が面白い。現場で人間関係を築くことが大事だと思った。核保有国の人とも時間をかければ築いていける」。人とつながる活動が核兵器のない世界への着実な一歩になります。

ICRCユース代表 高垣慶太さん 落とされた側の視点強調

 「被爆者のつらい体験に基づいて条約を実行していかなければならない」。締約国会議の議場で、早稲田(わせだ)大2年の高垣慶太(たかがきけいた)さん(19)は赤十字国際委員会(ICRC)のユース代表として英語でスピーチしました。普段(ふだん)は高橋悠太さんたちとも活動しています。

 ICRCといえば、被爆後の広島に駐日(ちゅうにち)首席代表としてジュノー博士が医薬品を届けたことが知られています。当時から、原爆被害の人道的(じんどうてき)影響は許容(きょよう)できないと指摘していました。今後の条約推進にも重要な役割を果たす組織です。

 高垣さんは崇徳高(広島市西区)の卒業生。スピーチでは、ともに医師で広島と長崎で被爆後の救護をした2人の曽祖父(そうそふ)を持つ者として、原爆を落とした側ではなく落とされた側の視点を強調しました。

 大勢の海外の若者と接して「ものすごい熱意で廃絶を目指して動いている」と強い印象を受けました。同時に「被爆体験をたくさん聞こうとする人は思ったより多くない」とも。核兵器問題は環境汚染(かんきょうおせん)やジェンダー(社会的性差(せいさ))の問題と結びつけて関心を持たれる傾向(けいこう)が強いそうです。

 「将来後悔(こうかい)しないよう、被爆者が生きているうちに多くの証言を伝えたい」と話す高垣さん。私たちもジュニアライターとして「伝えること」をもっと意識したいです。

高校生平和大使 大内由紀子さん 若者たちの活動に参加

 第24代高校生平和大使の近畿(きんき)大付属広島高福山校(福山市)3年、大内由紀子さん(18)は「核禁フォーラム」に関連した若者たちの活動に積極的に参加。若者の集会「ユース・オリエンテーション」では、核兵器保有に異議(いぎ)を唱えるスピーチを英語で披露(ひろう)し、「核兵器のある世界は平和とは呼べない」と訴えました。

 「核兵器の非人道性に関する国際会議」では、国連軍縮担当上級代表の中満泉事務次長が語った「専門知識と経験でもって論理的に核問題に向き合ってほしい」という言葉に共感したそうです。同時に「知識を付けることが自分の課題だと感じた」といいます。

 大学進学後は平和学の専攻や国連ボランティアへの参加を希望しています。元ジュニアライターでもあり、核兵器廃絶という目標に向けて熱心に活動する大内さんの姿は頼(たの)もしく、同年代として刺激(しげき)を受けました。

核兵器禁止条約
 核兵器を使う、持つ、造る、譲り受ける、脅(おど)しに利用することなどを全面的に禁止する条約で、現在66カ国が加盟。核実験の被害者を援助(えんじょ)することも定めています。核兵器を持つ9カ国や、「同盟国の核で守ってもらい、いざとなれば使ってもらう」という政策を維持する国は条約に入っていません。

私たちが担当しました
 この取材は、高3佐田よつ葉、高1山瀬ちひろ、田口詩乃、中3吉田真結、谷村咲蕾、小林由縁、相馬吏子、中1川鍋岳が担当しました。

 取材を通して中国新聞ジュニアライターが感じたことをヒロシマ平和メディアセンターのウェブサイトで読むことができます。

(2022年7月12日朝刊掲載)

[取材を終えて]

【高橋悠太さん取材】

 自身が被爆3世だからではなく、核兵器の問題を世界規模のものとして捉えているからこそ熱心に運動を続けられているという話が印象的でした。被爆地の広島、長崎だけで問題意識を深めるのではなく、日本全国、そして世界へと、知識と意見を共有し合うことが核廃絶への唯一の手段だと感じました。私たちは、原爆に限らず、あらゆる戦禍の犠牲を数字の大きさで判断してしまいがちですが、今も後遺症に苦しむ方々の存在を忘れず、平和活動に注力していきたいです。(高3佐田よつ葉)

 「広島出身だから」とか「被爆三世だから」とかは、ただのきっかけで、「みんな核の時代に生きる当事者」だから誰にでも核を語る権利・責任があると聞き、もっと核について皆が考えるべきだと感じました。核問題以外についても言えることだと思います。いろんなことについて、自分も当事者だと思って、たくさんのことを積極的に考えるようにしたいです。核兵器禁止条約にはたくさん課題がありますが、「できることをする」という姿勢を自分も見習おうと思いました。(中3小林由縁)

 高橋さんの言葉はとても分かりやすく、説明を聞いていて腑に落ちる部分が多くありました。高橋さんは「考えをしっかり言語化することが大切」と話しました。私たちが伝えなければならないことを、説得力をもって話す。それを日常生活でも意識するべきだと思いました。

 また高橋さんは、被爆者だけでなくあらゆる人が語らなければならない、とも話していました。私は今までこのような考えを持っておらず、新たな視点として知りました。視点の転換も、やはり日常の中で大切になります。「言語化する」ことも「視点の転換をする」ことも、どちらも日々の積み重ねの中で意識していきたいです。(中3相馬吏子)

 高橋さんは、平和活動をする上で人との「つながり」を大切にしている、と繰り返し話していました。私はジュニアライターとして平和活動をしていますが、私の周りで同じような活動をする人は多くないため、活動をする人同士の「つながり」が持ちにくい状態です。核兵器のない世界を作るためには、今よりも更に活動に参加する人が増え、多くの人と平和活動を通して「つながり」を持つことが大事だと思いました。核兵器禁止条約の内容、批准国や核兵器保有国のこと、核兵器の危険性などの現状をもっと発信していきたいです。具体的な情報を伝えることで、核兵器廃絶の重要性を自分ごととして考える人が増えると思うからです。

 平和を目指す人と人の「つながり」の輪を広げ、核兵器のない世界を実現したいです。(中3吉田真結)

【高垣慶太さん取材】

 被爆者をはじめ被害者側の視点から核問題を捉え直す動きが活発化していることを知り、興味深く感じました。核開発の過程だけでなく被爆者の犠牲の大きさに注目することで、核の脅威について正しい理解が得られることを認識しました。「議論で大切なのは、過去と現在の核兵器の威力を比較することよりも、時代を問わない核兵器の『非人道性』を考慮すること」という高垣さんの言葉が印象的でした。これからは被爆者の立場になったつもりで平和活動に取り組もうと思います。(高3佐田よつ葉)

 高垣さんを取材して、改めて被爆者の生の声の大切さを感じました。高垣さんは「1回聞いたことがあるから大体分かるのでもういい、ではない。被爆者一人一人に被爆体験があり、全て違う苦しみがある。個人個人の体験をいかに後世に受け継ぐかが大切だ」と話していました。ウィーンで開かれたイベントの会場では、被爆体験を聞く集まりへの参加者が、他のテーマの会場より少なかったそうです。私も危機感を感じました。私たちは被爆者の話を聞ける最後の世代です。積極的に家族や友達を誘って、被爆者の証言を聞きたいと思いました。(高1山瀬ちひろ)

【大内由紀子さん取材】

 今回の取材を通して、これからは国内だけでなく海外も視野に入れて活動したいと感じました。被爆者は長崎と広島だけではありません。海外にも被爆者や水爆実験の被害者がいます。その人たちの声に世界中が耳を傾け、全員が平和への関心を高める必要があると感じました。また、海外の人たちは、私たちが思っている以上に原爆被爆者の話を直接聞きたいと願っていることも知りました。言語の壁や物理的な距離の問題もありますが、そのような機会をどう設けることができるのかを考えたいです。(高1山瀬ちひろ)

 核兵器問題は、感情的に核兵器廃絶を訴えるだけでなく、合わせて核兵器の威力や環境への影響を科学的・論理的に説明することも大切だと分かりました。しかし、核の恐ろしさをあえて論理的に説明しなければならないということは、被爆者が一生懸命に体験を訴えてもなお核兵器が一向に減っていない現実も示しており、非常に残念だと感じました。

 高校生平和大使の活動にはもともと興味がありました。外国の方と平和について話す機会がたくさんあると知り、自分も目指してみようと思いました。大内さんのように、英語という言語の壁があっても平和の大切さや核兵器の恐ろしさを伝えるために、多角的に、そして明確なデータを示しながら、さまざまな活動を行いたいです。(中3谷村咲蕾)

 取材では、行動力の大切さに気付かされました。高校生平和大使の大内由紀子さんは、6月17日から21日までウィーンに滞在しました。現地では核兵器の非人道性に関する国際会議を傍聴したり、「自転車デモ」に参加したりしたそうです。言語の壁も感じたといいますが、それでも平和や核兵器廃絶について発信する積極性に感心しました。平和への思いがあってこその行動力だとも思いました。僕自身、デモと聞くと怖いイメージがありましたが、大内さんが参加された自転車デモは通行人も巻き込みながら楽しく訴えていたそうです。工夫次第で発信力は大きく変わるのだと思いました。大内さんには及びませんが、世界に核の脅威を知ってもらうために、どのような工夫が必要か考えたいです。(中1川鍋岳)

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