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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] 国際協力を仕事にする 情熱・好奇心で道開く

 日本から離れた国で紛争(ふんそう)、貧困(ひんこん)などの問題に取り組んだり、教育や生活を支援(しえん)したりするため、団体や個人が世界中で活動しています。国連の機関(きかん)、赤十字国際委員会(ICRC)、国際非政府組織(NGO)、日本に本部を置く支援団体…。さまざまです。私(わたし)も将来(しょうらい)国際協力などの仕事に就(つ)きたい、と思ったら、どのような道筋(みちすじ)があるのでしょうか。中国新聞ジュニアライターは、広島出身の人たちにオンラインで取材しました。

パレスチナ UNRWA・小田佳世さん

「もっと現場に」難民支援

 中東のエルサレムに住む小田佳世さん(37)は、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のヨルダン川西岸事務所に勤(つと)めています。難民に教育や医療(いりょう)、食糧(しょくりょう)などさまざまな支援をする国連機関です。

 エルサレムが隣接(りんせつ)するヨルダン川西岸と、南部のガザは、パレスチナ自治区と呼ばれます。隣の国ヨルダン、レバノン、シリアと合わせて約500万人が難民として登録されており、そのうちの3分の1の人々は難民キャンプで生活しています。小田さんの事務所は19の難民キャンプで活動し、43の診療所、96の学校を運営しています。各国政府に事業の提案や報告をする仕事などが小田さんの担当です。

 パレスチナ難民の歴史は複雑です。第2次世界大戦が終わった後の1948年、国連決議を基に、世界各地からユダヤ系の人たちが集まってイスラエルを建国しました。アラブ系のパレスチナ人は古里を追われました。

 ヨルダン川西岸では、イスラエルが「入植地」を拡大させています。ガザの人口密度は世界で最も高いと言われます。壁(かべ)が築かれ、出入りが制限されています。大人も子どもも、パレスチナの民間人が負傷する事件が日々起こっているそうです。小田さんは「違(ちが)う意見を持った人たちが共存できず、答えが見つかっていない問題です」と話します。

 小田さんはUNRWAで働く前、スーダンで地雷(じらい)の被害(ひがい)を避(さ)ける教育活動に携(たずさ)わったり、スイス・ジュネーブの日本政府代表部で兵器に関する協議に参加したりしていたそうです。「議場だけでなく『現場』で働きたい」と思い1年前にUNRWAへ移りました。

 意外ですが、英語や数学などの勉強は大の苦手だったそうです。広島女学院中高(広島市中区)に通い、バスケットボールの部活に夢中でしたが、けがで諦めました。校内の英語暗唱(あんしょう)コンテストで準優勝したのを機に、勉強を頑張(がんば)るようになりました。カナダの大学と米国の大学院に進学しました。

 小田さんは、世の中の問題を全て自分で解決しようと考えるのではなく「得意なことや情熱を持って取り組める問題に関わってみよう」「すべての経験が役に立ちます」と語ります。私たちも、自分の得意なことが何なのか、全部分かっていないと思います。まず、何かに挑戦(ちょうせん)する一歩を踏(ふ)み出したいです。

ニジェール JICA・山本主税さん

「積み重ね大切」農業開発

 国際協力機構(こくさいきょうりょくきこう)(JICA(ジャイカ))は、日本政府による発展途上国支援を実際に行っている機関です。本部は東京。東広島市にJICA中国があります。広島市西区出身の山本主税(ちから)さん(35)は、JICAニジェール支所のスタッフです。どこにあるか分かりますか。アフリカ西部の内陸国です。

 国土の多くがサハラ砂漠(さばく)に覆(おお)われ、しかも地球温暖化(おんだんか)の影響(えいきょう)で年々広がっています。国民生活の豊かさを示す「人間開発指数(HDI)」は世界189カ国中189位。世界で最も暑く、貧しい国の一つです。

 山本さんたちは首都ニアメーに住みながら、①教育②農業③平和と安定-を軸(じく)に支援をしています。若者(わかもの)の識字率は約(やく)3割(わり)で、山本さんが接する農家の人たちは、約9割が小学校を中退しています。それでも、学校の数は足りないそうです。JICAは小学校を建てて教科書を用意したり、教員に勉強の教え方を指導したりしています。

 山本さんの直接の担当(たんとう)は、農業開発です。農家の人と市場へ行き、どの作物がどの時期に売れるかを調べて、作付けや出荷時期を工夫します。売り上げ計算を教えたり、利益が出る方法を一緒(いっしょ)に考えたりします。すぐに支援の効果を得られなくても「少しずつの積み重ねが大切です」。

 大きな問題は「安全」です。国境付近ではイスラム過激派(かげきは)組織からの襲撃(しゅうげき)がよくあるそうです。昨年11月には国境付近の小中高339校が閉鎖(へいさ)し、教育機会が奪(うば)われたといいます。

 山本さんは美鈴(みすず)が丘高(佐伯区(さえきく))から京都の芸術大に進み、香港(ほんこん)のデザイン会社に勤めました。物があふれる世界で次々と新しい物を作るよりも「人のために働きたい」という思いを強めました。農業のベンチャー企業(きぎょう)で技術を学んだ後、JICAの青年海外協力隊員としてカメルーンへ。国際移住機関(IOM)のスタッフとして、チャドで水のインフラ整備を担当しました。「飢餓(きが)をなくしたい」と活動しています。

 山本さんが大切にしているのは、好奇心(こうきしん)と地域(ちいき)に適応する力。「広い心で苦労を楽しめば、どんな国でも生きていけます」。何についても言えることだと思いました。ニュースで気になった国を調べ、身近なところから自分ができることを探(さが)していきたいです。

呉高専・小倉亜紗美講師

必要なものは? 語学や技術… 日本でできることも

 国際協力に関係した職業を目指すには、どのような勉強や経験が必要でしょうか。呉高専(くれこうせん)(呉市)の小倉亜紗美(おぐら・あさみ)講師(40)に聞きました。広島大で環境(かんきょう)科学を学んで博士号を取り、学内の国際センターなどに勤めてきました。海外での研究調査や、留学生支援の経験が豊富です。

 国際機関やNGOの一員として活動するには、英語と合わせて他の言語も話せることや、土木、衛生、法律(ほうりつ)などその国のニーズに合わせた技術や知識を求められることがあります。現地でボランティアをしてから、仕事にする道もあります。

 多くの人が大学の修士号や博士号を持っています。ただ、絶対に必要とまでは言えません。中国語が話せないまま中国で緑化活動に熱中し、現地住民と仲良くなって成功させたNGOのスタッフもいるそうです。

 コロナウイルスの感染(かんせん)が続き、海外に行くのは大変です。仕事にすることはできなくても「日本でフェアトレードの商品を買うことや、留学生を支援することも国際協力です」と小倉さんは強調します。「自分の価値観(かちかん)を相手にただ押(お)しつけるのではなく、地域の文化を尊重(そんちょう)する気持ちも大切」。視野(しや)を広げながら、いろんな方面から国際協力に参加できるのです。

私たちが担当しました

 この取材は、高3森本柚衣、高2桂一葉、岡島由奈、高1中島優野、三木あおい、中3山瀬ちひろ、田口詩乃、武田譲、小川友寛、中2中野愛実、相馬吏子、谷村咲蕾、小林由縁、中1山下裕子が参加しました。

広島県サイトに載りました

 広島県のウェブサイト「国際平和拠点ひろしま」で中国新聞ジュニアライターについての記事が掲載されました=写真。普段の活動の様子に触れているほか、中・高生4人の声を紹介しています。ぜひ見てください。

 活動歴5年の高2桂一葉さん(17)は、被爆者への取材について「もし自分の親が目の前で亡くなったら…。体験がないからこそ『共感力』が大切と気づいた」と話します。ジュニアライターたちが、取材のやりがいについても語っています。https://hiroshimaforpeace.com/

(2022年3月7日朝刊掲載)

[取材を終えて]

 小田さんのお話を聞きながら、パレスチナの方々を救うため、中立の立場からとても難しい仕事をしていると感じました。生活やライフラインを援助することはできても、パレスチナの平和を約束することはできない。そんな状況にもどかしさを覚えました。また、小田さんの送る生活が、自分の生活とあまりに違いすぎると思いました。イスラエル軍とパレスチナの人たちとの間に緊張があり、頻繁に負傷者が出るといった状況に私が置かれていたら、頑張る気力を失うと思います。今後、パレスチナの人たちのように困っている人に、より有効な「支援」は何なのか、しっかり考えていきたいです。(中2谷村咲蕾)

 私は今までパレスチナ問題のことはよく知りませんでした。今回の取材でパレスチナの状況や、何が問題なのかを学ぶことができました。パレスチナ難民とパレスチナ在住の人の違いは、難民登録しているか、していないかの違いであることも知りました。「自分が正しいと思っている人同士」が対立し合っている、という言葉も印象深かったです。取材を通して、世界には私が知らないところでたくさんの争いごとが起きていて、その被害にあった人たちを支援するという大きな平和活動があることが分かりました。また、これからはもっと世界の状況について知り、小田さんのように、平和活動に少しでも貢献できる人になりたいです。(中1山下裕子)

 パレスチナ問題について初めて調べたとき、私は、パレスチナの土地を勝手に奪おうとするイスラエルが悪いのだ、とだけ思っていました。しかし小田さんの話を聞いて、この問題を正しく理解していなかったことに気づきました。パレスチナとイスラエルの両方の立場になって考えると、宗教的な考えの違いや、文化の違いも関係しているということが分かりました。パレスチナ問題は、私にとって正しく理解するのが難しい問題でした。

 私はこの取材をするまで、パレスチナ問題について知りませんでした。「難しい」の一言で終わらせることは残念だと思います。小田さんは、パレスチナ問題のことを「正解がない問題」だと話します。だからこそ、多くの人が正しくこの問題を理解し、関心を持つ事が大切だと思いました。(中2中野愛実)

 「平和は言葉では簡単に言えるけれど、実現は難しい」という山本さんの言葉がとても心に残りました。私は、今の広島は原爆が投下されたときよりも平和で明るい街であると感じ、平和が実現できていると思います。一方で、ニジェールは経済や教育、保健などの状況が厳しく、何か改善するには一つ一つ小さなことから順番にやっていくしかないそうです。私はこれまでニジェールについて全く知りませんでした。現地の人に話を聞くことがと必要だと感じました。これからは広島だけではなく世界に目を向けて、平和を実現するためには自分に何ができるかを考えたいです。(中1山下裕子)

 山本さんは「野菜を作って売るのではなく、売るために作る」という話をしていました。農家の方々に商売の考え方を変えてもらおうと、一緒に市場に下見に行き、相手に安すぎる値段で購入されないよう教えている、という話が印象的でした。しかし同時に、農家の人たちがそうやって学ばなければならない、生活の苦しい地域が世界に存在していることは残念だと思いました。普段日本で暮らしていては知ることのできない「平和」についての考え方があるのだと気づきました。(中3武田譲)

 今回の山本さんの取材で、初めて海外にいる方のお話を直接聞きました。発展途上国であるニジェールの実状を教えていただきました。教育については、生徒が藁葺きでできた学校に行き、教材を複数人で共有して学んでいること、初等教育の就学率が低いことなど、厳しい現実であることにも驚きました。小さな子どもによるテロや学生の誘拐事件もあり、とても治安が良いとは言えないことも分かりました。

 改めて、自分が不自由なく学んで暮らせているのは、当たり前ではないことを実感しました。また、そのような環境にいる私には、勉強して世の中のために役立てるという使命があると思いました。

 たくさんの国を渡り歩き、人生経験が豊富な山本さんの「苦労や失敗を楽しむ」、「納得できる人生を歩む」という言葉が心に響きました。苦労や失敗は、普通はなるべく避けたいものです。しかし、自身の納得できる道を選び、苦労や失敗をたくさん経験することで人は成長できます。そのことを大切にし、常に平和な暮らしを送れていることへの感謝の思いを胸に、社会に貢献のできる人間に成長したいです。(中3小川友寛)

 わらでできた小屋が学校であること、1本の鉛筆を買うことすら、お金の面で躊躇する保護者が多いこと、クーデターの影響で学校が閉鎖されたこと…。ニジェール在住の山本さんの取材に参加して、日本にいると想像しにくい状況を、具体例を挙げながらわかりやすく説明してもらいました。平和な世界にするためには、「絡み合っている課題を一つ一つ解いていく必要がある」と山本さんは話します。少しでも国際協力に貢献できる人になれるよう、まずは、どのような問題が結び合っているのか深く理解することから始めたいと思いました。(高2岡島由奈)

 小倉先生から話を聞きながら、自分の今の能力だけで、自分の可能性を決めつけないことが大切だと思いました。例えば、中国語をほとんど理解できない状態でも、中国の地方の緑化に成功した方がいるそうです。私も、自分の限界を決めつけずに何事にも挑戦していきたいです。また、国際活動にはやはり努力がいることを教わりました。国連に入るためには、「少なくとも3年以上、国際的な仕事にかかわるか、大学で修士号を取るべき」と小倉さんは語りました。可能性を見いだして、積極的に人のために行動し、高度な技術を学び、経験を積む努力を重ねることを常に考えていこうと思いました。(中2谷村咲蕾)

 「国際協力」と聞くと、NGOなどの団体が発展途上国に行って様々な活動をすることを意味していると思っていました。しかし今回のお話を聞いて、現地に行かなくても、フェアトレードの商品を買ったり、自分が不要になったものを現地に送ったりすることも「国際協力」の一つであり、誰でも簡単に参加できることが分かりました。これまでの私のように、「国際協力」は現地に行かないとできないものだと思う人が多くいると思うので、今回学んだことを身近な人から伝えて、たくさんの人に「国際協力」をしてもらいたいです。(中1山下裕子)

 小倉先生の「今の能力で自分の可能性を決めないでほしい」という言葉が印象的でした。私たちはつい、難しそうなことを避けてしまいがちですが、何事においても、まずは挑戦することが大切なのだと思いました。また、国際協力をする上で必要な技術は必ずしも最先端の技術ではなく、現地の人々が修理しながら使い続けられるようなものや、法律の整備をするための知識も大切である、という話が興味深かったです。私の学校では、SDGsの目標達成に向けて様々なことに取り組んでいますが、SDGsが国際協力や平和にも関係しているのだと知り、身近な行動が世界平和につながっているのだと感じました。(高1三木あおい)

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