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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] 広島サミット前 G7大使を取材 <中> 核戦争の危険 認識深まる

 5月19日から広島市で始まる先進7カ国首脳会議(しゅのうかいぎ)(G7サミット)を前に、中国新聞ジュニアライターはG7各国の日本代表を務(つと)める駐日(ちゅうにち)大使へのインタビューに取り組んでいます。フランスとカナダに続き、今回は米国の大使がテレビ会議システムを通じて私たちの質問に答えてくれました。また、サミットの開催(かいさい)が近づくにつれて活発化(かっぱつか)している市民の動きも取材しました。広島市内で16、17日に開かれた「みんなの市民サミット」での議論(ぎろん)を聞き、広島では関心の高い核兵器問題だけでなく、環境、格差など幅広(はばひろ)いテーマについて考えました。

ラーム・エマニュエル米駐日大使

被爆地の復興 強い印象

 米国大使館と中国新聞社をテレビ会議システムでつなぎ、ラーム・エマニュエル駐日大使に質問しました。ジュニアライターの取材は2回目です。最初はエマニュエル大使が広島を訪れた昨年3月で、「原爆の子の像」の前での囲(かこ)み取材でした。

 広島には3回訪(おとず)れたことがあり「原爆が落とされた都市というだけでなく、そこから復興(ふっこう)をとげた強靱性(きょうじんせい)を持つ都市だ」と強い印象を受けているそうです。

 サミットでは、被爆後に復興した街に、核保有国と「核の傘(かさ)」が必要だとする国の首脳たちが集まります。インド、韓国など8カ国も加わります。エマニュエル大使は「武器ではなく言葉で、一致(いっち)した見解(けんかい)を持って課題(かだい)を解決していこうとする場だ」と評価(ひょうか)しています。

 「実際の議論がどう進むのか、予想は難しいが、広島で開催されることで核戦争の危険についての認識(にんしき)がより深まる」。ロシアのプーチン大統領がウクライナへの核攻撃(かくこうげき)の可能性を口にしていますが「軽々しく話されるべきことではない」と強調しました。

 今回のサミットでジョー・バイデン大統領は、米国が原爆を落とした街を訪れる現職の大統領としては、オバマ氏に続いて2人目になります。米国民の反応はまだ薄(うす)いといいますが「訪問が近づけば注目は高まる」と予想しています。

 自分を「鉄道オタク」と名乗(なの)るエマニュエル大使は、前回の広島訪問で路面電車に娘と乗ったそうです。お好み焼きも大好きで「祖父が作ってくれたパンケーキを思い出す」と言いました。

 約30分の取材の間、とても気さくに話してくれました。核兵器禁止条約のことや、米国がどう核兵器をなくそうとしているのかについても聞きたかったです。最後に「私たちは『核なき世界』に向けて努力していきます。大使も一緒に頑張(がんば)りましょう」と話すと「ありがとう」と言ってくれました。

動画はこちら

みんなの市民サミット

核 環境 教育 17分野で議論

 G7サミットが開かれる都市と国では、市民も集会や会議を開き、環境(かんきょう)や教育などさまざまな重要課題を議論(ぎろん)します。核兵器の問題だけではありません。提言や宣言(せんげん)にまとめて、「こんな合意をすべきだ」と働きかけます。国のトップの人たちだけの考えで物事を決めさせず、市民の声を届(とど)けよう、という活動です。

 広島市内で開かれた「みんなの市民サミット」は、県内外のNPO法人や非政府組織(NGO)でつくる実行委員会が企画(きかく)しました。「子育て」「防災」など17分野のうち、「核兵器廃絶(はいぜつ)」と「気候」がテーマの分科会にジュニアライター8人で参加しました。

 「気候」の分科会では、気候科学者で東京大教授の江守(えもり)正多さんの講演をオンラインで聞きました。

 温室効果ガスと呼(よ)ばれる二酸化炭素やメタンの排出量(はいしゅつりょう)が増えると、熱が地球の外に放出されにくくなり、温暖化(おんだんか)につながります。江守さんは「地球上で干(かん)ばつや大雨はもちろん、人間の死亡(しぼう)リスクも高まる」と話しました。温暖化の原因の一つは先進国での化石燃料の大量消費ですが、温暖化の影響(えいきょう)を大きく受けているのは途上国(とじょうこく)で、東南アジアなどでは毎年洪水(こうずい)の被害(ひがい)を受けています。

 世界の16~25歳(さい)を対象にしたこの問題についての意識調査で、フィリピンでは半数が「極度に心配している」と答えた一方、日本はわずか3・4%でした。「日本では関心が低く、気候変動を心配する若者(わかもの)の割合(わりあい)が少ない」。江守さんは「『二酸化炭素を出さないことが当たり前』だと考えるよう、人々の常識を変える必要がある」と強調しました。

 分科会を企画(きかく)した一人の原田健次さん(51)=三次市=は、兼業(けんぎょう)でうどん店と農業を営む中で水不足や大雨に悩まされています。気候変動は、私たちにとって身近な問題です。関心を高めるには、交流サイト(SNS)などで意見を発信することから始めるのも大切だと思いました。

 「核兵器廃絶」の分科会では、NGOピースボート共同代表の畠山澄子(はたけやますみこ)さんと核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))のスージー・スナイダーさんが、各国の市民団体が東京で開いた国際会議「C7サミット」について報告しました。

 市民からG7の首脳(しゅのう)たちに核兵器廃絶を働きかけようと、国内外の約125団体とオンラインで議論(ぎろん)を重ねたそうです。畠山さんは「核の問題を、社会が抱(かか)える課題と関連付けながらアプローチすることが重要」と振(ふ)り返(かえ)りました。

 C7サミットの参加者たちは「若い世代の軍縮(ぐんしゅく)教育に力を入れる」「2045年までに核兵器廃絶を実現するための緊急交渉(きんきゅうこうしょう)の計画を打ち出す」などの意見を盛(も)り込(こ)んだ政策(せいさく)提言書を岸田文雄(ふみお)首相に渡しました。スナイダーさんは「サミットを核兵器廃絶を進める機会と捉(とら)えて、大きな声を一緒(いっしょ)に上げよう」と呼びかけました。

 会場からは、G7サミット参加国は世界の国の一部だけだと指摘(してき)する声がありました。G7の国以外にも働きかける必要性を確かめ合っていました。「核のない、誰(だれ)も取り残されない持続可能な社会をみんなの手でつくる」という共同宣言も発表しました。

 G7サミットでは国や地域(ちいき)をまたぐさまざまな課題が話し合われます。あらゆる人たちの声が反映(はんえい)されるよう議論してほしいです。

被爆者の笠岡さん

被爆証言聞いて帰国後に行動を

 G7サミットについて被爆者はどのような思いを持っているのでしょうか。証言活動に長年取り組む笠岡貞江(かさおかさだえ)さん(90)=広島市西区=に聞きました。

 笠岡さんは爆心地から3・5キロの自宅(じたく)で被爆し、頭にけがを負いました。両親は建物疎開(そかい)作業に出かけて爆心地に近い場所で被爆。父親は大やけどを負い、2日間苦しんだ末に亡(な)くなりました。母親は骨(ほね)のかけらと髪(かみ)の毛だけになって戻(もど)ってきました。

 戦後の生活は貧しく、きょうだいで助け合いながら何とか生きました。「子どもたちの夢や未来を奪(うば)った原爆のむごさを世界に伝えるのが私(わたし)の役目」と国内外で体験を語っています。

 サミットで、G7各国の首脳(しゅのう)らは被爆者の代表と対面する見通しです。笠岡さんは「被爆者の証言をしっかり聞いて、核兵器廃絶のためにこれからどのように行動していくのか各国が明確な目標を定めること」を求めます。「広島で感じたことを、帰国後に自分の言葉で国民に伝え、平和のために行動してほしい」と願っています。

    ◇

 ジュニアライターは、サミットについて昨年末から取材をしてきました。被爆者、大使、行政と市民への取材で知ったり感じたりしたことを踏(ふ)まえて、首脳たちに広島で何に取り組んでほしいかを話し合っています。その結果を提案としてまとめ、サミット前の5月に紙面掲載します。

私たちが担当しました

 高3三木あおい、山広隼暉、高2田口詩乃、高1小林由縁、殿重万桜、中野愛実、谷村咲蕾、森美涼、藤原花凛、吉田真結、中3尾関夏彩、川本芽花、新長志乃、戸田光海、山代夏葵、山下裕子、中2佐藤那帆、西谷真衣、松藤凜、矢沢輝一、行友悠葵、中1石井瑛美、小林真衣、山下綾子が担当しました。

(2023年4月24日朝刊掲載)

【みんなの市民サミットを取材したジュニアライターの感想】

「気候変動」の分科会

 分科会を共催した「350Japan」の伊与田さんと、「ぼくらのはなし」の原田さんに話を聞きました。2人とも「地球温暖化の問題は大人たちが起こしてきたのに、関係のない子どもたちが影響を受けていて本当に申し訳ない」と謝りました。今までそのようなことを言われたり、考えたりしたことがなかったのでとても驚きました。しかし、いずれは私たち若者が将来を担うため、温暖化についてよく知っておく必要があります。

 私たちは交流サイト(SNS)を通じて世界に意見を発信することができます。ジュニアライター活動も通して、地球温暖化や、戦争、平和などいろいろな問題や課題について知り、新聞やウェブサイトで発信することの大切さを感じました。(中2矢沢輝一)

 気候科学者の江守正多さんの話を聞くまで、地球温暖化の対策はエアコンを節電することなどだと考えていました。しかし、江守さんは「国の政策を変えるなど、もっと壮大なことをしなくてはならない」と話していました。そのために、対策している人を応援したり、温暖化を重視する政治家に投票したりすることも対策につながるそうです。

 日本人が他国と比べて温暖化についての関心が極めて低いと知り、危機感を抱きました。世界が一丸となって取り組んでいかなければならない課題なのに、日本のせいで対策が進まないかもしれないからです。まずは多くの人に地球温暖化が進むとどうなるのかを知ってもらう必要があります。私も含めて、これからは若い世代の自分たちが解決すべき問題だと自覚しないと、対策は今後進展しなくなるのではと思いました。(中2行友悠葵)

「核兵器廃絶」の分科会

 今回、C7サミットに「核兵器廃絶ワーキンググループ」ができました。それは、この広島でサミットを行うことの一つの成果ではないかと思います。国籍や年齢、性別だけでなく、資格を持っているか、戦争を経験しているかどうかに関係なく多くの人が集まり、そして、核兵器廃絶に向けて意見を交わし一つのものにまとめました。

 サミットは決して首脳たちだけが行うものではないと思います。実際に私たち市民が首脳と話をできるわけではありませんが、私たちは私たちで話し合うことができる、世界の、けれど自分たちにも大いに関係がある問題について関心を持つきっかけになると思います。

 その問題の一つに、核兵器があります。私たちは、問題を解決するためにこれから何をしていかなければならないのかというアイデアを出していくことが必要なのではないかと思いました。より多くの人が考えれば、より多くの視点で考えることができます。それを一つにまとめていく中で、さまざまな人や物に配慮した解決策が生まれてくるのだと思います。

 大それたことではありません。一人一人の思い描く未来を共有して、そこに到達するための道筋を照らしていき、その光が多ければ多いほど、未来は確かなものになっていくのではないでしょうか。(高2田口詩乃)

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