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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] ヒロシマの中高生→G7首脳 サミットへ核のない平和提案

 広島市で19日に開幕(かいまく)する先進7カ国首脳(しゅのう)会議(G7サミット)までもうすぐです。最終日の21日に首脳宣言を発表するようですが、原爆の被害を受けた広島から、どんなことが発信されるべきでしょうか。

 中国新聞ジュニアライターは昨年からサミットに関する取材をしてきました。日本と欧州連合(おうしゅうれんごう)(EU)以外の6カ国の駐日大使に手紙を書いて取材を申し込みました。大使たちは温かく応じてくれましたが、「自国の安全のため核兵器は『抑止力(よくしりょく)』として必要」と言われ、厳しい現実にも触れました。

 被爆者からつらい体験を聞き、「核兵器をなくして」という願いを受け止めました。提言や要求をまとめた市民の活動を通して、国のリーダーに任せておかず市民から働きかける姿勢を学びました。各国の人たちを「おもてなし」の心で迎えるためのいろんな活動があることも知りました。

 その上で、みんなで会議を2回開き、6項目(こうもく)からなる「首脳への提案」を作りました。教育や環境、貧困問題にも目を向けてほしいとの思いも込めました。

①受け身にならず被爆者と面会し、そのことを自分の国で発信してください

 形だけの会話で「被爆者の話を聞きました」では意味がありません。じっくりと会い「自分や家族が核兵器の犠牲(ぎせい)になっても『核兵器は必要だ』と言えるか」と自分自身に問いかけてください。もちろん、原爆資料館も時間をかけて見学してほしいです。面会や見学の様子と、自分が思ったことをメディアや交流サイト(SNS)で発信して国民と共有してください。サミット後に広島で感じたことをどう生かすのかを知りたいです。

②核兵器廃絶(はいぜつ)の意思を明言して、被爆100年までにゼロにしてください

 世界には今1万2千発以上の核兵器があります。減らしただけでは安心できません。持続可能な開発目標(SDGs)のように、廃絶の目標年を決めて取り組んでください。そうしなければ、いつまでも先延(の)ばしになるでしょう。2045年までに実現すれば、大人になった私たちが核兵器のない世界に生きることができます。まずG7各国で核兵器廃絶を宣言(せんげん)して、核兵器禁止条約に参加してください。

③各国の子どもと核兵器や安全保障(ほしょう)について話し合う機会をつくってください

 世界中の子どもたちと一緒(いっしょ)に、核兵器を減らす過程や、誰(だれ)も傷(きず)つけない安全保障について話し合いたいです。その中にG7や他の国の首脳(しゅのう)も加わって、子どもの世代に核兵器を残さないため、どう取り組んでいくのかを報告してください。子ども目線から議論(ぎろん)をすれば、核兵器の問題に関心を持つ人や、行動する人が世界で増えると思います。

④世界中の学校で平和教育が受けられるよう呼(よ)びかけてください

 将来(しょうらい)を担(にな)う子どもたちが平和教育を受ける機会を持つことは大切です。まずはみんなが学校に行けなければなりません。核兵器や戦争の恐(おそ)ろしさを学べば「いけないことだ」と知る人が増えるはずです。漫画(まんが)「はだしのゲン」などがもっと世界中で読めるようにしてください。世界の学校をオンラインでつなぎ、各国で考えられている「平和」の違(ちが)いを知る機会も欲(ほ)しいです。

⑤核兵器のための資金を、貧困(ひんこん)に苦しむ子どもたちの支援(しえん)に回してください

 世界の子どもの6人に1人は極度の貧困に苦しんでいるといわれています。食べ物が足りず十分に教育を受けることもできなかったり、戦地で銃(じゅう)を持たされたりしている子もいます。私(わたし)たちと同じ子どもたちの権利(けんり)が不平等であってはいけません。核兵器や爆弾(ばくだん)を造るための資金を子どもたちに回して、平和を築くため活用してください。

⑥環境(かんきょう)問題を多角的な視点(してん)で話し合い、市民と行動してください

 広島の復興は、再び芽吹(めぶ)いた木々や草花にも支えられました。しかし今、地球温暖化(おんだんか)が進み危機(きき)を迎えています。核兵器を造ったり核実験で使ったりすることによる自然破壊(はかい)や汚染(おせん)も深刻(しんこく)です。各国の環境と核に関する現状をお互(たが)いに評価して、解決策(さく)を話し合ってください。私たちを取り巻(ま)く環境はリーダーだけの問題ではありません。市民の力も必要です。

「数字や期限 具体性を」 元ジュニアライター岡島さん助言

 私たちはジュニアライター卒業生で広島大法学部1年の岡島由奈さん(18)に提案を考える会議に参加してもらい、アドバイスを聞きました。岡島さんはサミットに参加する首脳(しゅのう)たちに被爆者との面会などを求めるオンライン署名(しょめい)を実施(じっし)し、高校卒業前の3月末に2万1319筆を外務省に届(とど)けています。

 最初に署名活動の体験について聞きました。やろうと決めたのは「サミットをパフォーマンスで終わらせず核兵器廃絶に向けた議論(ぎろん)をしてください、と自分の声で首脳たちに直接求めたかった」からだそうです。

 次に私たちは、グループに分かれて意見を出し合いました。「具体的な数字や期限を盛(も)り込(こ)むと説得力が増す」と助言を聞いて、六つの提案にまとめました。

 岡島さんのように、中高生も直接平和に貢献(こうけん)する活動ができることに驚(おどろ)きました。「たとえ『実現は難(むずか)しい』と言われても、結果以上にプロセスが大切。行動する勇気を常に忘(わす)れずにいたい」と聞き、強い気持ちで何事にも挑戦(ちょうせん)したいと思いました。

 岡島さんは、提案が載(の)ったこの紙面を外務省に提出してくれます。読んでもらいたいです。

私たちが取材や提案づくりを担当しました

 高3三木あおい、山広隼暉、高2山瀬ちひろ、田口詩乃、小林芽衣、高1森美涼、吉田真結、中野愛実、谷村咲蕾(イラストも)、小林由縁、藤原花凛、殿重万桜、中3山代夏葵、戸田光海、山下裕子、川本芽花、尾関夏彩、新長志乃、中2川鍋岳、佐藤那帆、西谷真衣、新田晄、行友悠葵、矢沢輝一、松藤凜、中1石井瑛美、小林真衣、山下綾子

 ジュニアライターはサミット期間中、国際メディアセンターなどで取材をする予定です。5月末から6月にかけて紙面に掲載します。

G7大使を取材 <下>

 ジュニアライターがG7各国の駐日大使たちを取材する企画の3回目となる最終回は、ドイツと英国です。これで、イタリアを除(のぞ)く5カ国の大使や公使、領事にインタビューできました。

クレーメンス・フォン・ゲッツェ ドイツ駐日大使

「核共有」でも核持たない国と対話

 ドイツのクレーメンス・フォン・ゲッツェ駐日大使を東京の大使公邸(こうてい)でインタビューしました。  2014年に原爆資料館を見学し、「写真は人間的な悲劇を物語る。特に原爆に遭った子どもたちの写真が印象に残った」そうです。

 オラフ・ショルツ首相が広島を公式訪問(ほうもん)するのは今回が初めてです。「首相に広島についてどんなことを話していますか」と聞くと「先に言葉で伝えるよりも、資料館の展示を自分の目で見て原爆投下の恐ろしい結末を知ってほしいと考えている」と答えました。

 今、ドイツでは核兵器に対する関心が高まっているそうです。ロシアのプーチン大統領が核使用をちらつかせ、ドイツからそう遠くないベラルーシに戦術核兵器(せんじゅつかくへいき)を配備(はいび)すると言っているからです。

 ドイツは、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国で、「核共有」として米国の核兵器が配備されています。フォン・ゲッツェ大使は、「平和と安全のバランスを保つため核抑止(かくよくし)は重要。近い将来に核兵器のない世界を実現することは難しい」と言いました。

 同時に「長期的な視点としては廃絶は目標です」と強調しました。昨年は核兵器禁止条約の第1回締約国(ていやくこく)会議にオブザーバー参加し、条約に批准(ひじゅん)した国々と対話したそうです。

 そもそも核兵器をなくせば、脅威(きょうい)はなくなるはずです。「すぐになくせない」と聞いて残念に思いましたが、対話は良いことです。日本や他の国もそうしてほしいです。

 平和教育についても話してくれました。歴史や政治の授業で、ナチス政権の時にユダヤ人たちが殺されたことを学びます。フォン・ゲッツェ大使は「第2次世界大戦はドイツから始まった。ドイツは特に歴史的な責任を背負っている」と語ります。「二度と繰(く)り返してはいけない」と学んでいます。

キャロリン・デービッドソン英国総領事

子育て・仕事「ジョブシェア」語る

 英国の大阪(おおさか)総領事館からキャロリン・デービッドソン総領事が中国新聞社(中区)を訪(たず)ねてくれました。何度か広島に来たことがあり、2021年に就任(しゅうにん)してからは2度目。「ヒロシマが世界平和を願い、継承(けいしょう)していることに感銘(かんめい)を受けている」と話しました。

 英国は225発の核兵器を保有しています。そのことを聞くと「政府も国民も『核兵器なき世界』という長期的な目標を共有している」と話しました。同時に「核抑止(よくし)を支持する国民は多くいる」「ロシアのウクライナ侵攻(しんこう)が続いて世界の安全保障(ほしょう)が不安定な中、核兵器を抑止力として維持(いじ)しないといけない」とも言いました。すぐになくす政策(せいさく)ではないのが現実です。

 デービッドソン総領事は、転勤しながら子育てと仕事を両立させるため、夫トーマス・カーターさんと12年間、外交官の「ジョブシェアリング(仕事の分担(ぶんたん))」をしたことで知られています。中米のグアテマラなどに一緒(いっしょ)に赴任(ふにん)し、「大使の仕事」と「家庭」の役割(やくわり)を4カ月ごとに交代したのです。画期的な働き方はフランスやドイツでも取り入れられているそうです。

 サミットでは「ジェンダー」も重要課題です。男性、女性を問わず社会で活躍(かつやく)するには「周囲が求める性別による役割(やくわり)を気にせず、高い目標と勇気、決意を持って」と話します。一人一人が能力を伸(の)ばせることが社会をより良くする、と強調しました。私たちが平等に、力を合わせて生きることで、世の中にもっと新しい視点(してん)が生まれると思いました。

(2023年5月8日朝刊掲載)

●英国の在大阪総領事へのインタビュー

 英国のキャロリン総領事が「高い目標を掲げることや、自分が何をしたいか考えて社会を変えていくことが大切」と話していたのが印象的でした。また英国では子どもたちが歴史や平和教育を学び、過去の過ちを繰り返さないよう学んでいることを知りました。どの国も、一人一人の若者の言動が影響を与えると感じました。(中1山下綾子)

 英国政府が核兵器に対して責任を持ってデータをすべて公開していることを知り、核廃絶を目指す上で非常に大切なことだと思いました。データを公開し続けることは信用につながり、核兵器の削減につながるでしょう。これからも核廃絶を訴える市民への公的サポートを続け、核兵器以外の安全保障の道はないのか、などについても話し合ってもらいたいです。(高1谷村咲蕾)

 今回の取材で、世界が不安定な中、英国は抑止力として核兵器を保有していると聞きました。核兵器の廃絶はどこかの国から始めるのではなく、世界全体で一斉にやらなければいけない課題だと思いました。「ジョブシェア」については初めて知りました。女性も働く時代の今、出産や育児を女性だけが背負うのは大変なことです。日本でも広まってほしいと思いました。(中3戸田光海)

●提案と岡島さんの感想

 G7サミットへの提案を考える上で「平和とは何か」「どんなことをしたらいいのか」を深く考える機会になりました。私は平和な世界の実現に向けて、広島だけでなく全国、そして世界中での平和教育が大切だと思います。せっかく7カ国の代表が集まる機会なので、話し合って終わるのではなくしっかり行動に移し、多くの課題を解決するきっかけにしてほしいです。サミットを広島で開く意味を考え、各国の代表だけでなく世界中の市民の人たちも何らかの形で参加してもらいたいです。(高1殿重万桜)

 元ジュニアライターの岡島由奈さんと神奈川県の生徒が協力してオンライン署名を集めた話を聞きました。歳と歳、2人合わせても歳。そんな若い人たちでも、やろうと思えばどんなことでもできるのだと驚きました。「子どもがやっているから」と軽く見られ、うまくいかないこともあったそうです。それでも諦めることなくやり遂げた2人の平和への思いの強さに胸を打たれました。「若いから」と諦めることは簡単です。しかし、そこで諦めず、逆に「若さ」を武器にして、たくさんの活動に取り組んでいきたいと思います。(高1森美涼)

 ジュニアライターの仲間と一緒に、平和や戦争をはじめとした世界的な問題について話し合えたのは今回が初めてでした。それぞれの活動歴や取材経験も違いますが、その中で感じてきた思いや考えを聞くことができて刺激的でした。取材でのインプットや記事や感想でのアウトプットだけでなく、声に出して顔を突き合わせることで出てくるアイデアや思いもあると感じました。これからの活動でもそうした機会を作り、深い取材をしていきたいと思います。(高2田口詩乃)

 岡島さんの話を聞いて、私たち中高生でも行動すれば外務省に声が届けられると知りました。岡島さんは「ジュニアライターを続けてきたからこそ、オンライン署名活動ができた」と何度も話していました。それを聞いて、この活動の大切に改めて気付きました。これからは勇気を持って行動したいです。岡島さんのように、自分たちの声が多くの人に届けられるような活動ができるようになりたいです。(中3山下裕子)

 私たちのグループは環境問題についての提案を考えました。環境問題を解決するためには、まず核兵器を廃絶しないといけないと思いました。自分以外の人の話で具体的な考えを聞くことができ、勉強になりました。貧困のことについてまとめたグループの発表では、数字を使ったわかりやすい提案になっていました。(中1山下綾子)

 元ジュニアライターで大学1年生の岡島さんに話を聞きました。岡島さんは3月1日からオンラインで署名を集め、その思いを外務省に提出しました。平和について考え、共有することで大きな力となるジュニアライター活動の必要性を実感しました。

 提案づくりでは「受け身にならずに被爆者と対話する」ことについて話し合いました。被爆者の高齢化が進む中、ヒロシマで開催されるサミットは貴重な機会です。被爆者の話を聞かなければ原爆被害の実態は分からないと思うし、率直な言葉をいただけると思います。ただ聞いて終わりるのでなく、被爆者の質問に答えたり感想を自国のメディアに伝えたりするなど、被爆者との対話の様子を発信してほしいです。

 私たちがまとめた提案は、岡島さんが外務省に提出します。G7サミットに影響を与えたいと思いました。(中2矢沢輝一)

 提案を考えながら、以前取材した長崎大の中村先生の話を思い出しました。「核問題について取り組んでいると、がっかりする出来事が少なくない」という言葉です。私たちが一生懸命考えた提案は実現するかわかりません。でも「どうせできない」と諦めるのではなく、少しずつでもアクションを起こすことが大事だと学んできました。

 私はG7サミットが核廃絶への歴史的な転換点になることを願っています。そしてサミット後も、被爆地広島の声を世界へ発信し続けます。(高1藤原花凛)

 提案づくりに参加して、世界にはこれほども多くの課題があることを改めて痛感しました。世界をよりよくするために、今回のサミットを意味のあるものにしてほしいです。私たち一市民が関心を持つだけでも、サミットを盛り上げる材料になると思います。日々の報道を確認し、自ら調べるなど行動していきます。(高2山瀬ちひろ)

 サミットへの提案について意見を交わすことができて、勉強になりました。事前に提案内容を考えていましたが、みんなで話し合うことで新たな考えも出て、広く、深く考えることができました。みんなが平和のことについてしっかりとした考えを持っていることに感心しました。私たちの意見が少しでも各国のリーダーに伝わり、多くの人が平和について考える機会となればいいなと思います。(中2新田晄)

 私のグループでは核兵器廃絶についての提案を考えました。メンバーの意見には、自分では思いもよらなかった視点があり、自分が漠然と思っていたことをうまく言語化したものもたくさんありました。ちょっとした話題でも打てば響くように、話が広がりました。これからも定期的に意見交換をしたいと思いました。みんな同年代ですが、さまざまな角度の視点があり、いい意味での違いも感じてとても刺激的でした。(高1小林由縁)

ドイツ フォン・ゲッツェ駐日大使にインタビューしたジュニアライターの感想

 今回の取材で、ゲッツェ大使が繰り返し「長期的には核無き世界を実現できると確信している」と話しました。脅威である核兵器自体をそもそも無くせばいいのではないかと質問すると、ロシアのプーチン大統領のような、軍縮をしない、核で脅すといった脅威が存在する限り「安全と平和のバランスを保つための核止力として重要」と強調しました。一方で、核なき世界を実現するためにNATO加盟や核兵器禁止条約のオブザーバー参加といった、核兵器禁止条約の批准国と対話をすることも重要だと考えている事が分かりました。

 また、ドイツは学校で歴史の授業や平和学習で広島や長崎の原爆について学んでいるため、「広島や長崎の原爆について知らない人はいない」そうです。それにロシアのウクライナ侵攻もあり、核に対する関心は高まっているそうです。私はその話を聞いて、日本は平和学習が広島や長崎で行われ、他県では知らない人がまだたくさんいます。このお話を聞いて、広島県民としてドイツが知ってくれていることは嬉しかったですが、自国の状況を見直すと、改善点がたくさんあると感じました。

 大使の「自らの目で見て感じることが大切だ」という言葉が心に残っています。実際に核保有国が広島や長崎の資料館を見て核を使うと恐ろしいことになると感じて欲しいと思いました。(中2佐藤那帆)

 ドイツの若者は広島や核兵器について高い関心を持っていると聞き、ドイツの若者にも取材をしてみたいと思いました。ロシアによるウクライナ侵攻でドイツからそう遠くない場所で核の脅威がある中で核抑止についてどのように考えているのか質問してみたいです。

 また、ゲッツェ大使が核兵器禁止条約の第1回締約国会議にオブザーバー参加したのは、核兵器をなくしたい国の意見をはじめ、さまざまな意見を聞いて話し合うことが大切だと考えているからだと話しました。色んな立場の国の意見に耳を傾ける姿勢は非常に意義のあることだと感じました。課題は山積みだと思いますが、そのような姿勢が他の国々にも広がってほしいと思いました。(高1谷村咲蕾)

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