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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] ともしびに込める思いは…

 夜の暗闇(くらやみ)に浮(う)かび上がるキャンドルのともしびのメッセージ。写真や映像で見たことがある人も少なくないのではないでしょうか。戦争、差別、迫害(はくがい)や弾圧(だんあつ)、核兵器が世界からなくならないことに対して、市民が抗議(こうぎ)や犠牲者(ぎせいしゃ)への追悼(ついとう)の意を込(こ)めています。広島では、広島市中区の原爆ドームの前や周辺でよく行われます。中国新聞ジュニアライターはともしびに寄せる市民の思いを取材しました。

キャンドル集会に参加

「ガザでのジェノサイドやめて」

 「ガザでのジェノサイド(民族や宗教による特定集団の殺害)をやめて」―。イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃(こうげき)が続く11月11日。原爆ドーム前に年齢(ねんれい)や国籍(こくせき)がさまざまな約500人が集いました。ガラス瓶(びん)に入れたキャンドル約千個をみんなで一つずつ地面に並(なら)べ、灯をともしてメッセージを浮かび上がらせました。

 市民でつくる「ストップジェノサイド・ヒロシマ」の主催(しゅさい)です。メンバーの一人、広島市立大の田浪亜央江准教授は、ともしびのメッセージであれば「私たちの訴(うった)えが一目で分かり、思いを言葉にできない人も行動で示せる」と話します。

 会場では多くの人が原爆ドームを入れてともしびを撮影していました。田浪さんは「被爆地からの発信は海外の人にとって大きなインパクトがあります」と力を込めます。集会後、交流サイト(SNS)を見ると、参加者が写真を投稿(とうこう)したり拡散(かくさん)したりしています。ガザの人たちにも届(とど)き「力をもらった」「私たちの希望です」と反応があったそうです。

 集会に参加した広島市立大4年の佐藤優さん(22)=安佐南区=は「ガザのために何ができるか分からず、これまで行動できていなかったが、思いを共有できる大勢の仲間と一つのメッセージを作り上げることができた」と話していました。

 田浪さんによると、ガザには200万人以上が暮(く)らし、約半数が18歳以下の若者です。イスラエルによって16年間も境界(きょうかい)を封鎖(ふうさ)され、空爆されてきました。「狭(せま)い土地で押し込められたまま生き、命を奪(うば)われる子どもたちのことを知って」。日本に住む私たち若い世代に求めています。

被爆地から

原爆ドーム前 訴える力

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻(ぐんじしんこう)、核兵器禁止条約の発効(はっこう)、ミャンマーでの市民弾圧(しみんだんあつ)…。原爆ドーム前や周辺で、市民たちがキャンドルとともに自分たちの訴(うった)えを発信してきました。

 「ともしびには、言葉や世代の違いを超えて世界に訴える力があります」。20年前からいろんなキャンドル集会に関わっているNPO法人ANT―Hiroshima(広島市中区)の渡部朋子理事長(70)は話します。

 渡部さんが仲間と活動を始めたのは2003年。米国によるイラク攻撃の中止を求め、無言でキャンドルを囲(かこ)みました。写真や映像を見た人が「ヒロシマからのメッセージ」と一目で分かるように、原爆ドームそばを会場にしました。

 長崎原爆の日のほか、東日本大震災の犠牲者追悼集会=写真右=の時にSNSで発信しています。渡部さんもメンバーの核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)が核兵器禁止条約の発効2周年に合わせて1月に開いた集会=同左=では、世界中の市民や平和団体によって拡散され、注目度に驚(おどろ)いたそうです。

 渡部さんは「この地に眠(ねむ)る原爆犠牲者に背中を押してもらい、行動してきた。ともしびに怒りや愛を込め、非暴力の声を世界に届け続ける」と力を込めます。

海外でも

心一つにアピール

 ともしびを掲(かか)げる集会は目に見える形で問題を周知し、みんなで心を一つにしたり、一人一人が自分で考えるきっかけをつくったりする方法として海外でも行われています。テーマは、暴力や差別への反対、政治への抗議(こうぎ)、奪(うば)われた命への追悼(ついとう)などさまざまです。インターネットで調べてみました。

 ①世界的な気候変動問題を受けて「(気温上昇を)1・5度に抑えるために闘(たたか)おう」と若者たちが発信(ドイツ、2020年)

 ②スリーマイルアイランド原発であった炉心溶融(ろしんようゆう)(メルトダウン)事故から40年の節目(ふしめ)に、住民が「原発反対」と記した横断幕(おうだんまく)とともに掲げました(米国、19年)  ③当時の朴槿恵(パククネ)大統領の退陣(たいじん)を求めた集会。大勢の参加者がペンライトを手に歩きました(韓国、16年)

 このほか、動画投稿サイト「ユーチューブ」を通じて、自宅などから参加する催(もよお)しもありました。場所を問わず思いを共有できそうです。

私たちが担当しました

 高2小林芽衣、田口詩乃、高1相馬吏子、谷村咲蕾、殿重万桜、中野愛実、藤原花凛、森美涼、中3山代夏葵、中2川鍋岳、松藤凜、矢沢輝一、行友悠葵、中1石井瑛美、山下綾子が担当しました。

(2023年12月12日朝刊掲載)

【取材を終えて】

~キャンドル・アクションに参加して~

 17年間。私と同い年のガザの子は、生まれてからずっと決められた土地を離れることができず、数年に一度は空爆の危機にさらされてきました。それを知ったとき、私は戦争の恐ろしさと残酷さを今までにないくらい強く感じました。今、私が日常と思っていることの大半が、非日常である世界で、心配事のレベル、夢のレベルが全く異なる世界です。それを想像したとき、日本に生まれてよかったと思わず安堵してしまいました。そんな生活を17年間を送ってきて、それしか知らない私と同い年の子は、今どんな思いを抱いているのでしょうか。そうして心配するよりも、わが身の安全を思ってしまい、自分の身勝手さと無知を痛感しました。そして、今からでもその現状を知り、小さなことからでも行動を起こしていかなければならないと感じました。これは他人事ではなく、自分に降りかかったかもしれない人生であるからです。皆さんも、想像してみてください。あなたと同じ年に生まれた人々が、今、どんな思いを抱いているのか。どんな夢を描いているのか。(高2田口詩乃)

 呼びかけ人で広島市立大の田浪准教授が「ガザで起きていることは今に始まったことではなく、何年ものあいだ起こってきたことです。パレスチナの人たちは国際社会から見捨てられてきたも同然だ」というスピーチにハッとさせられました。大きなニュースになってから知ることはたくさんありますが、私たちの知らないところで、紛争や貧困などさまざまな問題に苦しんでいる人たちがいます。私自身、10月にイスラエルとハマスの大規模な衝突が始まるまで「これまで何度も衝突が繰り返されてきた地域」という認識はあっても、ヒロシマや核廃絶のことばかりに目を向け、ガザ地区については無関心でした。世界で起きているすべてのことに常に関心を向けておく、ということはもちろんできませんが、関係ないと思うのではなく自分から真実を確かめにいく姿勢が大切だと思います。今回の取材で、参加者の「私たちは世界を動かすことができるような大きな存在ではないけれど、今の自分にできる最大限のことを尽くしたい」という強い思いをひしひしと感じました。この勇気づけられた気持ちを忘れずに、私も周りの人を巻き込んで、平和を実現するための行動を起こせるようになりたいです。(高1藤原花凛)

 今回の取材を通して感じたことは、ガザでの戦争は私たちに無関係なことではないという事です。キャンドルアクションの呼びかけ人の多くはガザの人々と関わりを持っている人でした。私たちはガザで起こっていることを他人事として捉えてしまいがちですが、自分事として考える事も必要だと思いました。日本に住む私たちは当たり前のように平和に過ごしているけれど、その裏で同じような子どもたちが今も爆弾に怯えながら生活していることに強い衝撃を受けました。今回のアクションでは市民の声の力強さも感じました。多くの市民が呼びかけ人の話に耳を傾け、ガザの人々に思いをはせていました。一人の力は小さいけれど、一人ひとりが声を上げて立ち上がることで、その声は大きくなると実感しました。日本に住む私たちがガザのために出来ることは、ガザの戦争について知ること、そして自分の意見を多くの人に発信していくことではないかと考えました。(高1中野愛実)

 ただスピーチをするだけでなく、共同作業が必要な「キャンドル」という形で平和への思いを表現することや、灯した後に語られた、ガザにいる友人についてのスピーチで「パレスチナ人がただの数字として扱われている」という言葉が特に印象に残りました。こうして感想を書いている今でもガザでは多くの人が家族を失い、不自由な生活を強いられています。どこか遠い話と捉えるのではなく、明日は自分の身にも起こるかもしれないと危機感を持たなければならないと思いました。思いを発信するだけでなく、それを形にできるよう実際に自分にできることから行動していきたいです。(高1谷村咲蕾)

 今回のキャンドルアクションは、「ジェノサイドをやめよ」というテーマで行われました。新聞記事やニュースでは、全てを理解することが難しいイスラエル問題。主催者の方も少し前までは「苦しんでいる方のために何ができるのだろうか」と悩んでいたと話しました。核廃絶と同様、1人で全てを変えることが難しい問題だからこそ、多くの人が無力さを感じていると思います。私は今回のイベントに家族を誘いました。家族は「イスラエル問題の深刻さを痛感した。関連のニュースをより気にするようになり、とても良い機会だった」と話していました。私にはガザ戦闘を止めることも、自ら今回のようなイベントを開催することも難しい。そして、まだ選挙権も持っていません。しかし、誰かに伝えることができる私は無力ではないと思います。ジュニアライターとして活動しているという自覚と自信を胸に、身近なところから平和を広めていきたいです。(高1森美涼)

 呼びかけ人の1人が「キャンドルを自分たちで持ち寄って、メッセージを発信するという行動に意味がある」と話していました。イベントでは、ガザで暮らす人たちからのメッセージを聞くことができ、現地の惨状を思い浮かべました。軍事衝突には複雑な背景がありますが、一般人が巻き込まれるという事態はあってはならないと思いました。広島に原爆が落とされて、多くの市民が亡くなりました。事情があっても許されないことと同じように、ガザ地区をはじめ、さまざまな場所に住んでいる関係のない人に被害が及んではいけません。キャンドルを持ち寄る意味、それには多くの意味がありそうですが、私は「記憶に残して後世に伝える」という意味だと思いました。自分たちが作り上げたキャンドルの文字でメッセージを発信したというアクションは、ネットや人々の記憶に残り、衝突を風化させないように、もっと関心を集められるようにする意味があるのではないかと思いました。(中2川鍋岳)

 「夢は世界中の子供たちと変わらない」という言葉が印象的でした。 ガザの子どもたちは、戦争しか知らないと言っていたけれど、 私たちと同じように心や感情を持っていて、誰しも思うことは変わらないと感じました。そして、私たち一人一人の力は小さなものかも知れないけれど、YMCA が取り組んでいるパキスタンのオリーブの木を送ったり、今回のような集会に参加したりすることで、子どもたちの夢を忘れず、争いが一刻も早く終わってほしいと思いました。(中1山下綾子)

~ANT―Hiroshima 渡部朋子さんを取材して~

 私はNGO職員や青年海外協力隊として活動し、国際的な問題の解決に携わりたいという夢を持っています。そのため、国内外で長年平和活動に取り組む渡部さんの話を直接聞くことができてうれしかったです。特に印象に残っているのは、渡部さんが平和活動を始めるきっかけとなった「ヒロシマで犠牲になった方々の死の意味とは何か、彼らの死を無駄死にさせないために私には何が出来るか」という考え方です。確かに私自身、広島で生まれ育ち、平和教育を受けてきたので、漠然と「過ちは繰り返してはいけない、世界は平和であるべき」という思いを持っていますが、自分がそれを学んでどうなるのか考えたことがありませんでした。平和教育の根底には、1発の原子爆弾によって奪われた尊い命が多くあり、それを昔のことで終わらせないために、過去から学び、広島に生まれたからにはそれを何らかの形として次代につないでいかなければならないのだと強く感じました。失われた多くの命を決して無駄にしないように、私に出来ることを考えながらジュニアライター活動にも力を入れようと思いました。(高2小林芽衣)

 今回の取材を通して、被爆地ヒロシマが持つ影響力の大きさを感じました。「広島」といえば「原爆ドーム」という人が多いように、世界的にも広島は原爆や平和のイメージがあります。だからこそヒロシマからの平和を訴えるメッセージには力があるのだと思いました。取材の中での渡部さんの「原爆ドームには眠っている人々の霊が眠っている」という言葉が特に心に残りました。原爆ドームの前でアクションを起こすことで、亡くなった被爆者の方々の思いを背負っているという意味も出てくると感じました。また、「キャンドルの光」などの全ての人に国や言語関係なく安らぎを与えるものを使い、意見を発信することは、とても意味のあることだと思います。これからもジュニアライターとして、市民の声や活動を写真も交えて発信し続けていきたいと感じます。(高1中野愛実)

 渡部さんは「ろうそくの火は人の心に癒しや慰め、そして希望までも与えてくれる」と語りました。キャンドルは言葉を通じて思いを伝えるだけでなく、言葉を超えて訴える力もあるのだと思いました。また、渡部さんは「ひとりの力はとても小さいけれど、力がないわけではない」と話しました。一人ではもちろんのこと、仲間と一緒であっても壁にぶつかることがあります。そんな時、多くの困難を乗り越え、行動し続けている渡部さんのこの言葉から勇気をもらうことができると思いました。渡部さんはキャンドルアクションだけでなくさまざまな平和活動をしています。私も人とのつながりを大切にしながら、今の自分にできることを探して行動を起こしていきたいと思いました。(高1相馬吏子)

 渡部さんの「失敗を恐れずに、やりたいことをやってみなさい」という言葉が印象に残りました。核兵器をめぐる複雑な情勢や環境問題など、世界のさまざまな問題を知るだけでなく、限界を決めつけないでもっと挑戦していいのだと勇気をもらいました。自分の得意な分野から何か平和につなげられることはないのか、目的を明確にしていきたいです。(高1谷村咲蕾)

 今回、取材をした渡部さんは以前、学校に講演に来ていただいたことがあり、またお会いできて本当に嬉しかったです。とても優しく明るく対応して下さる素敵な方でした。渡部さんのお話で心に残った言葉は「願いをもち続ける」ということです。夢や願いをずっと持ち続けたらいつか叶うという意味だと思いました。私は最近落ち込んでいる日が多かったのですが、この言葉を聞いてポジティブに夢をもち続けようと思いました。(中2松藤凜)

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