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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] 持続可能な世界 核兵器は要らない

 1月22日は、核兵器を造る、持つ、使うことなどを禁じた「核兵器禁止条約」の発効から3周年でした。この時期に合わせ、条約の実現に貢献(こうけん)した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のメリッサ・パーク事務局長が広島に来ました。被爆者や市民と交流し、原爆資料館を見学しました。被爆地で何を感じたのでしょうか。若(わか)い人たちにどんな期待を持っているのでしょうか。中国新聞ジュニアライターが取材しました。

核兵器禁止条約発効3年 ICAN事務局長が広島訪問

原爆の子の像 ヒロシマ忘れてはいけない

若者は地球の未来を担う存在

生涯を通じて地球を守ることに関わって

 19日に広島市に到着(とうちゃく)したパークさんは、ICAN国際運営委員の川崎哲(あきら)さんと平和記念公園(中区)の原爆慰霊碑に献花(けんか)し、「原爆の子の像」を訪(おとず)れました。

 私たちは原爆の子の像の前で2人を迎(むか)え、この日のために折った千羽鶴と、市民が折りジュニアライターに託(たく)された千羽鶴をそれぞれ手渡しました。パークさんは展示ブースに移動し、大事そうに折り鶴を納(おさ)めてくれました。

 さらに、パークさんに「核兵器廃絶を実現するため、若者に伝えたいメッセージを聞かせてください。色紙にも書いてもらえますか」と英語で尋(たず)ねました。

 すると、色紙いっぱいに「若者は地球の未来を担(にな)う存在です。生涯(しょうがい)を通じて地球を守ることに関わってください。持続可能な世界に核兵器は要りません」と英語で書いてくれました。「広島で起きたことを決して忘れず、再び起きないようにしなくてはいけません」とも語りました。

 私たちはジュニアライター活動の中で戦争の教訓(きょうくん)を学び、若い世代に被爆体験と戦争の記憶を自分ごととして捉(とら)えてもらえるよう発信したいです。決意を新たにしました。

日本の参加 今でも遅くない

原爆資料館で講演

 20日には原爆資料館でパークさんの講演会がありました。「苦しい体験を繰(く)り返(かえ)し語(かた)り、人類と核兵器は共存(きょうぞん)できないと世界に発信し続けている」と被爆者に感謝し、若者が体験を語り継(つ)ぐ重要性を話しました。

 現在、核兵器禁止条約に70カ国・地域(ちいき)が参加しており、ほかに20余りが「署名(しょめい)」という条約参加に向けた最初の手続きを終えています。ICANは条約に前向きな国々と連携(れんけい)し、加盟(かめい)国を増やすための呼(よ)びかけに力を注いでいます。

 しかし、日本は「米国の核兵器で守られることが国の安全のため必要」としています。パークさんは「残念だ」と話し、「今からでも遅(おそ)くない」と条約参加を促(うなが)しています。

 もちろん、核兵器廃絶は大変な目標です。「活動の中で敗北感を味わうこともあるかもしれないが、多様な人々と協力し、続けることが大切」とも強調します。

 講演では、原爆資料館の訪問で感じたことにも触(ふ)れました。「人間が人間に対してこんなにむごいことができるのか。繰り返してはならない」。そして「私(わたし)たち人類は選択(せんたく)ができる。対立より理解、戦争より対話、爆弾(ばくだん)より美術や音楽を選べばより良い社会、未来を築くことができる」と呼びかけました。

地域から声上げよう 若者への期待

 パークさんはオーストラリアで9年間、国会議員として活動し、大臣も務めました。その前は法律(ほうりつ)家として国連に勤務(きんむ)し、現在イスラエル軍の攻撃(こうげき)を受けているパレスチナ自治区ガザや、1990年代に紛争(ふんそう)があった旧ユーゴスラビアのコソボなどに赴任(ふにん)した経験があります。

 講演に続いて被爆者や若者とのパネルディスカッションに参加したパークさんは「どんな高校生活を送っていましたか」と聞かれ、「世界情勢や人権(じんけん)、環境(かんきょう)などの問題に関心を持ち、より良い世界を築くため自分にできることを考えていた」と振(ふ)り返(かえ)りました。「ローカル(地域)とグローバル(地球規模(ちきゅうきぼ))はつながっている。世界のために何かしたいと思ったら、地域活動から始めよう」と話しました。

 ジュニアライターからは「日本の条約参加を目指す上で、若者はどんな行動を取るべきだと思いますか」と質問しました。パークさんから「岸田文雄首相に直接働きかけてほしい。広島の若者の声には力がある」と励(はげ)まされました。核兵器廃絶を願って活動している日本と世界の若者たちと連帯し、輪を広げることも勧(すす)められました。

 ICANは発足からわずか10年で条約の実現という目標を達成し、2017年にノーベル平和賞を受賞したそうです。一人一人の力が社会を変える一歩、という言葉は本当だと実感しました。

 高3中島優野、高2小林芽衣、田口詩乃、高1相馬吏子、谷村咲蕾、藤原花凛、吉田真結、中3尾関夏彩、川本芽花、戸田光海、山代夏葵、中2川鍋岳、西谷真衣、行友悠葵、中1山下綾子が担当しました。

 取材を通して中国新聞ジュニアライターが感じたことをヒロシマ平和メディアセンターのホームページで読むことができます。

(2024年1月29日朝刊掲載)

【感想】
~ICANのメリッサ・パーク事務局長の講演を聞いて~

 パークさんは「被爆体験の伝承が核兵器のない世界を作る基礎になっている。被爆者と核兵器禁止条約が目指す方向は同じだ」と話し、伝承することを大切だと考えていることに驚きました。さまざまな人の意見を聞いているパークさんが、ここまで被爆者一人ひとりの体験を重要だと考えていると想像していなかったからです。被爆者の証言は「人間が同じ人間に対してこんなひどいことができるのか」という核兵器の非人道性を突きつけることができるから大切なのだと言います。被爆体験を被爆者本人から直接聞ける最後の世代として、私たちが後世に体験を伝えていくことの重要性をあらためて実感しました。また、核と人類は絶対に共存できないことや、日本が核兵器禁止条約に参加しなければいけないと、力強く何度も訴えました。パークさんは、核兵器廃絶は不可能だという意見に屈することなく、人々が努力すれば核兵器のない世界は作れることを確信しているようでした。核兵器のない世界を実現するため、私も被爆体験を聞くことができる機会をより大切にしていこうと考えました。そして、聞いた話を多くの人に発信したり、対話を通してさまざまな意見を聞き、私の意見を発信していきます。(高3中島優野)

 パークさんは「核兵器禁止条約は核廃絶への入り口であり、唯一の被爆国である日本が参加することを期待している」と話しました。日本は現在、核兵器禁止条約に参加していませんが、オブザーバー参加など直接的でなくても核廃絶のためにサポートすることができるのだと分かりました。また、「一人ひとりの人間ができることがあると認識すること」も大事だと話しました。核兵器の問題が地球規模であるからこそ、まず自分の身近な事を知ることが大切なのだと思いました。私も広島に住む一人として、原爆や核廃絶のことをしっかりと伝えていけるように頑張りたいと思います。(高1相馬吏子)

 パークさんは原爆資料館を見学して感じたことや、核兵器に対する思いを率直に話してくれました。「人類と核兵器は共存できず、核兵器は必要ない。代わりに平和が必要だ」という言葉がとても印象に残りました。また「被爆者の声を発信し、核兵器の非人道性を訴えることが必要」との呼びかけに対して、それはまさに私たち中国新聞ジュニアライターが取材活動で取り組んでいることであり、今後もさまざまな形で被爆者の声を国内外に届ける取り組みを続けていこうと思いました。(中3山代夏葵)

 パークさんの講演に参加して一番感じたのは、被爆者の声をこれからも伝えていきたいという思いです。パークさんは何度も「被爆者の声を伝承していくことが大事だ」と強調していました。それを聞き、私たちが被爆者の言葉や思いを継承していく大切さをあらためて実感しました。また、私はパークさんに日本が核兵器禁止条約に批准するためには、どのような行動をすべきか質問した際、「まずは岸田首相に直接伝えるべきでは」と答えたのも印象的でした。今までそのような考えを持ったことがなく驚きましたが、ジュニアライターとして記事を書くことに加えて、より多くの人に私たちの平和への願いを届けられるよう努めたいと感じました。(中2西谷真衣)

 パークさんの講演では、過去の過ちから見た核兵器の非人道性だけでなく、現実から見た核兵器の非人道性も理解を深めることができました。特に、核兵器が環境にも大きな影響を与えているというのには驚きました。環境問題が注目を集める中、核兵器と環境を結びつけて関心を持ってもらおうとする取り組みは効果的だと思います。パークさんは「被爆者の人類と核兵器は決して共存できない』というのは、シンプルだが深いメッセージだ」と話しました。「人類と核兵器は共存できない」という枠の中で、さまざまな視点でいかに核兵器廃絶が大切なのかを語り、説得力のあるロジックばかりで感銘を受けました。被爆者の高齢化が進む中、体験の継承も大切ですが、それと同時に若者の関心と理解を少しでも多く持ってもらうことが重要だと思います。パークさんのように、核兵器廃絶への強い思いと、ロジックがあれば核兵器の恐ろしさが伝わると思います。核の傘に守られていても核兵器が使われたらどうしようもないということや、意図せず使われてしまうことなど、知れば知るほど多くのリスクがあることが分かりました。「核兵器禁止条約が発効されたのは、私たちの活動は無駄ではないことを証明する」という意見にも納得しました。核兵器の恐ろしさをあらためて認識し、より深く理解することができました。ジュニアライターの活動や身近な人を通じて、自分が得た情報の多くを共有したいと思いました。(中2川鍋岳)

 メリッサさんの話を聞いて、世界平和のためには平和や核兵器についての教育が大切だと思いました。メリッサさんは「ほとんどの国では核兵器に関する教育がないので教育課程を作るべき」と言っていました。私も核兵器や平和についての基礎知識は話し合う上でとても大切だと思っていたので、教育課程を作るのは大切だと思いました。そうすれば建設的で現実味のある議論ができると思いました。(中2行友悠葵)

 「世界的に核兵器の教育が不十分で被爆者の声をベースにしていくべき」という言葉が印象に残りました。世界には正当な戦争をするために戦争犯罪とみようせず、正当化するところもあります。しかし、ICANが行っている折り鶴プロジェクトは被爆者の証言を聞くなどしていて、核兵器の非人道性を訴え、核兵器廃絶が実現することにつながる取り組みは核兵器の禁止を訴える活動をしていることを知りました。被爆者の証言ベースとして世界の国々でも核兵器の教育をしていくことが、核兵器をなくすことにつながると感じました。(中1山下綾子)

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