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ジュニアライター発信

『ジュニアライター発』 106歳の被爆者を見送って 「ベストを尽くして」 力に

 昨年の夏、中国新聞ジュニアライター10人余りを前に、被爆体験を語ってくれた三登登美枝さんが2月2日、106歳(さい)で亡(な)くなりました。三登さんの容体が悪化したと聞き、私は三登さんが暮(く)らしていた広島県府中町の高齢者施設(こうれいしゃしせつ)を小林可奈記者と訪ねました。息を引き取る前日のことでした。

 三登さんは目を開けることも、話すこともできなくなっていました。私は三登さんの手を握(にぎ)って「三登さんが教えてくれたことを次の世代に伝えていきます」と言いました。すると、ぎゅっと握り返(かえ)してくれました。私の声が届(とど)いている気がしました。

 大好きだった父親を原爆に奪(うば)われ、自身は妊娠(にんしん)4カ月で入市被爆した三登さん。当時を思い出すことはつらく、大勢を前に被爆体験を証言したのは、昨夏が初めてだったそうです。涙(なみだ)を拭(ぬぐ)いながら記憶(きおく)をたどり、核兵器使用につながる戦争をさせないため、「Do your best(ベストを尽(つ)くして)」と語ってくれました。

 私の夢は国際的な機関で平和のために働くことです。三登さんから証言を聞いた4カ月ほど後、平和構築を学べる大学の面接試験に挑(いど)みました。英語での質問に頭が真っ白になりましたが、三登さんの言葉がよみがえり、「I will do my best(入学したら全力で頑張(がんば)ります)」と応じて、合格することができました。

 戦争で尊(とうと)い命が奪(うば)われてはならない―。

 三登さんが最後の夏に私たちに届(とど)けてくれたメッセージです。受け取った私たちは、戦争のない世界の実現へベストを尽くします。(高3小林芽衣)

(2025年3月3日朝刊掲載)

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