緊急連載 核なき世界への鍵 ノーベル平和賞ICAN <中> 原点
17年10月8日
反核運動の声 積極発信
被爆惨禍に各国危機感
「感激。核兵器禁止条約に入る国を増やし、廃絶につなげる運動の大きな支えになる」。非政府組織(NGO)、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))のノーベル平和賞受賞が発表された6日。広島市南区出身の被爆者、サーロー節子さん(85)は、カナダ・トロント市の自宅で喜びをかみしめるように語った。
2007年結成のICANと連携し、各国で原爆被害を証言。今年7月7日、米ニューヨーク・国連本部での禁止条約交渉会議には車いすで議場入り。条約の採択直後にスピーチし「この地球を愛するなら、世界の指導者は条約に署名を」と訴え、各国政府の代表から大きな拍手を浴びた。
条約に道を開いた、被爆者への共感と核兵器の法的禁止への支持の広がり。非核保有国の政府主導で13~14年に3度開かれた「核兵器の非人道性に関する国際会議」が大きな役割を果たした。ICANはNGOの代表格として会議をPRし、積極発信した。
科学面から試み
初回のノルウェー・オスロ会議。ICAN結成の中心となった核戦争防止国際医師会議(IPPNW)などは、最新研究に基づいた核戦争による気候変動や飢餓のリスクを強く押し出した。原爆投下を正当化する考えが根強い米国などが被爆体験に根差した廃絶の求めに十分応えないため、非保有国は科学からの切り口を試みたのだ。だが結局、核保有5大国は欠席した。
続くメキシコ・ナヤリット会議は「潮目だった」(複数の出席者)。被爆の惨禍を伝える反核運動の原点の色合いを強め、ICANが推すサーローさんが冒頭から、広島女学院高女(現広島女学院中高)2年時の被爆体験を語った。1発で、これほどの惨禍が―。戦争はむろん事故や誤発射、テロによる核爆発のリスクへの懸念と結び付き各国が危機感を強めた。
第3回のオーストリア・ウィーン会議は158カ国が出席。米英も出て法的禁止阻止へ圧力をかけざるを得ないほど、うねりは大きくなった。ICANは市民集会を主催。サーローさんは、女学院の犠牲者約350人の名前を記した横断幕を掲げ、廃絶を求めた。ICAN代表は会議で「被爆者の体験は核兵器は耐えがたく、禁止されるべきだとの証しだ」と訴えた。
「孫」と世界回る
「孫世代」が多いICANと世界を回るサーローさんはしみじみ言う。「年を取り、活動はきつい。でも核問題を自らのこととして捉え、国際的に行動する彼らといると、疲れた体を動かさなければと思う」
各国の加盟団体も、被爆者の訴えを広めてきた。NGOピースボート(東京)は08年から、被爆者が世界各地で証言する船旅を展開。乗船中の今年6月、国連で条約制定を求めた広島市東区の被爆者、田中稔子さん(78)は受賞に「廃絶へ何十歩も前進した気がする」と目を赤くした。
やはり船旅で昨秋にオランダを訪れた安佐南区の被爆2世、東野真里子さん(65)は、ICANに加盟する反核団体「PAX」の仲介で国会議員に会い、母親の被爆体験を伝えた。同国は、日本と同様に米国の核戦力に安全保障を頼るが、条約交渉に参加した。
「世界各地の団体のつながりを生かした発信力で被爆者、核実験の被害者たち苦しむ人の思いを広げてくれた。活動への注目がさらに高まってほしい」。フェイスブックで、PAXメンバーの受賞を喜ぶ書き込みに、東野さんはすかさず「いいね!」を押した。(田中美千子、水川恭輔)
(2017年10月8日朝刊掲載)