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核なき世界への鍵

[核なき世界への鍵 禁止条約に思う] 明治学院大国際平和研究所長 高原孝生さん

NPT弱点 補完の意義

 核兵器禁止条約は核兵器の廃絶へ重要な、必然のステップだ。民間人も無差別に、遺伝子まで傷つける非人道性から今の国際法の原則からもおよそ使用が許されず、当然条約で禁止されなければならなかった。

 一部の「核拡散防止条約(NPT)体制を弱める」という主張はおかしい。NPTで米ロ英仏中の5保有国に義務づけられた軍縮交渉が停滞し、米ロは核戦力の近代化を計画する。インド、パキスタンなどが条約体制の外で核を持ち、問題解決は見えない。禁止条約は、問題点が多いNPTを補完するものだ。

  ≪段階的な核軍縮を主張する日本政府は国連での条約交渉に不参加。20日の署名式も欠席した。≫

 日本は国連中心主義に立ち返って交渉に参加し、「モラルリーダーシップ」を発揮するべきだった。条約制定を多くの中小国の外交官が使命感を抱いて実現させたように、米国が超大国であり続けられない中、国際組織での多国間交渉が役割を増す時代。なのに、自国第一主義の米国ばかりを見て同調した。ニュージーランドは米国の同盟国だが、非核をポリシーとし条約に早速署名している。

 政府が保有国と非保有国の橋渡し役を目指すなら、その信頼を得る行動が要る。まず、せめて廃絶という条約の目的や、政府の主張に沿う点などは評価すると表明すべきだ。政府は核軍縮のアプローチの違いばかりを言うが、条約は被爆者に触れ、政府が訴えてきた軍縮教育や市民社会の重要性を掲げてもいる。加盟前でも締約国会議には出られる規定になっている。広島・長崎へのこの会議の招致や条約の「援助」規定に沿った世界のヒバクシャの医療支援などで貢献できる。

 ≪被爆者団体は政府に条約加盟を求めているが、現状では、米国の核戦力に自国の安全を頼る政策が壁になる。≫

 「核の傘」依存は、北朝鮮と同じ発想と言える。その実態は、核使用の脅しに他ならず、相手国からすれば喉元に突き付けられた「核のやり」。相手国も反応して核開発につながる。間違った安全保障政策ではないか。条約ができた今、再検討のチャンスだと考える。(聞き手は水川恭輔)

たかはら・たかお
 1954年、神戸市生まれ。東京大法学部卒。97年に明治学院大国際学部教授、2014年から同大国際平和研究所長。専門は国際政治学、平和研究。

(2017年9月22日朝刊掲載)

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