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核なき世界への鍵

核なき世界への鍵 オスロからの報告 <下> 市民社会の一手下

融資封じ廃絶へ圧力

 ノーベル平和賞授賞式の余韻は、2日後の12日もノルウェー・オスロを覆っていた。市民約100人が参加した核兵器禁止条約を巡る集会。受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))の中心団体の一つで、オランダの反核団体「PAX」のスージー・スナイダーさん(40)は高揚感をにじませつつ訴えた。「核兵器の終わりへ、誰でもできることがある」

 PAXが進めるのが、核兵器製造、維持、近代化に関わる会社と取引がある銀行や年金基金の一覧を公開し、取引をやめるよう求める市民運動だ。「核兵器への財布を閉じる」(スナイダーさん)。対象は2013~16年の取引でみて、26カ国390の金融機関に上るという。

 各国の市民がこうした金融機関を避ければ、関連融資等は減り、核兵器関連産業は「斜陽」になる―。核に「非人道兵器」の烙印(らくいん)を押す禁止条約の制定に今回の受賞が重なり、運動への追い風を期待する。

 実は、ノーベル賞の賞金を出すノーベル財団(スウェーデン)も10月初め、ノルウェーの環境団体から、投資信託を通じて核兵器製造の関連企業に間接投資している可能性が極めて高いと指摘を受けた。ICANから説明を迫られ、同月下旬、倫理規定を強め、遅くとも来年3月までに間接的も含め投資関係を断つと発表した。

 「ほかの金融機関にも、いい影響を与えるはず」とスナイダーさん。PAXは禁止条約に反発する米国で、条約制定を機に核兵器製造に投資しない方針を示した銀行を一つ確認。模範例としてホームページで紹介している。

 核兵器ではないが、日本でも同様の動きがある。今月、三菱UFJフィナンシャル・グループが、10年に禁止条約が発効したクラスター弾を「非人道的」として、製造企業への融資を完全禁止すると発表。平野信行社長は14日、会長を務める全国銀行協会での記者会見で「世界の流れを踏まえ、クラスター弾に限らず、融資ポリシーを明確にし、開示する努力が必要だ」と述べた。

 「民」の動きを広げ、核兵器禁止条約の早期発効を目指すICAN。被爆者サーロー節子さん(85)=広島市南区出身、カナダ・トロント市=は受賞演説で、その夜の「トーチパレード」を念頭に「燃え立つたいまつを持って行進し、核の恐怖という暗い夜から抜け出そう」と呼び掛けた。

 「とても力強い演説だった。人道主義の国として署名しないのは恥ずかしいと私たちを行動に駆り立ててくれた」。オスロ市民のトル・グジェルデさん(68)は自国政府に条約への署名を求める札を手にパレードに参加した。「Yes I can(私たちはできる)」と声を重ねた約2千人の各国市民。NGOのツアーで訪れた広島、長崎の被爆者たちも、条約に署名しない被爆国日本の加盟を願い、隊列に加わった。

 12日、サーローさんは帰国前の記者会見で、核兵器廃絶に向けて「一里塚に到着した満足感はある」と一連の行事を振り返った。母校、広島女学院大(広島市東区)の後輩から届いた折り鶴の首飾りをかけられると、穏やかな笑みを浮かべ、エールを返した。「広島の人たちに伝えてください。ありがとう。若い人たちに続いてほしい」(水川恭輔)

(2017年12月18日朝刊掲載)

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