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核なき世界への鍵

核なき世界への鍵 5・27から1年 <中> 被爆国政府 同盟強調 廃絶かすむ

 「核兵器廃絶へ、被爆国だからこそ言える強い訴えを発し、行動してほしい。そんな思いで首相に花輪を手渡しました」。大型連休中の4日。広島市内に帰省した東京の大学1年田中光太さん(18)は友人と平和記念公園(中区)を訪ね、「5・27」を振り返った。

 修道高(同)3年だった当時、オバマ米大統領の訪問行事で原爆慰霊碑に献花する安倍晋三首相に花輪を渡す役を務めた。一昨年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に合わせ、平和首長会議(会長・松井一実市長)が派遣した高校生の一行の中から選ばれた。核兵器のない世界を必ず実現する―。オバマ氏の後に演説台に立った安倍氏の言葉を頼もしく感じた。

 しかし、そんな思いをよそに、政権・与党はこの1年、原爆を投下した核超大国との「和解」と、「同盟強化」の文脈でオバマ氏の訪問をPRしている。

 昨年7月の参院選。自民党公約集に慰霊碑前でオバマ氏と安倍氏が握手する写真が大きく使われたが、添えられた安倍氏の署名入り文章は安全保障法制や「同盟の絆」に触れても核軍縮の文字はなかった。オバマ氏と被爆者の抱擁の場面が海外では「和解」の象徴として報じられ、年末の安倍氏の米ハワイ・真珠湾訪問がその意味を強めた。

 安倍氏は今年2月、核増強も辞さないとするトランプ大統領と初めて会談。「核の傘」をはじめとする米軍の抑止力提供を確認した。米政権は今、「核兵器なき世界」の目標見直しも視野に入れるが、日本政府に「逆行」を防ごうとする動きは見えない。

 田中さんは高校時代、「核兵器禁止条約」実現を目指す署名活動に力を注いだ。進学後の東京では、被爆者や市民の反核、平和活動を見聞きする機会が激減した。片や、北朝鮮の核・ミサイル問題について「危ないね」と同世代で話題に上る。「オバマさんが退任した今、被爆国の首相が核兵器廃絶と平和的な外交へ一層頑張ってほしい。あの日を一時のブームのように終わらせないためにも」。久しぶりに再会した級友たちと碑前で願った。

 オバマ氏訪問を批判的に見る向きも当時から広島にあった。「核抑止力を振りかざす同盟のアピールに被爆地が利用され、非常に後味が悪い。和解の名の下に、原爆による大量殺害の違法性と、核兵器禁止の訴えが覆い隠されてはたまらない」。市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」(HANWA)の森滝春子共同代表(78)は今も憤る。

 政府は「まず訪問を」の姿勢で事前に原爆投下に対する謝罪を求めず、オバマ氏が投下の是非や謝罪に言及しなかった点をいまだ問題視していない。被爆地の首長たちもこの点は同様だ。「原爆投下は絶対的に過ちだったとの認識が核兵器の禁止、廃絶に直結するはず」と森滝さんは言う。

 HANWAを含む市民団体は、あれからちょうど1年となる27日に市内で核兵器禁止条約についての集会を開く。市民の関心を高め、被爆国政府が真に廃絶へと歩みだすように、と狙う。(水川恭輔)

(2017年5月24日朝刊掲載)

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