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核なき世界への鍵

核なき世界への鍵 初交渉から <上> ボイコット 違法化懸念 米が反発

 「核兵器禁止条約」を作る初の交渉会議が3月27~31日、米ニューヨークの国連本部で開かれた。見えてきた条約の意義やかたちを報告する。(水川恭輔)

 27日午前10時。会議開幕と同じ日時に国連本部内で、米国はヘイリー国連大使の記者会見を構えた。

 「現実的でなければならない。北朝鮮が核兵器の禁止に同意すると誰が信じるのか」。詰め掛けた各国の記者ら約50人を前にヘイリー大使は熱弁を振るい、禁止条約が国際安全保障に悪影響を与えると強調した。

 会見はおよそ10分。同じ保有国の英仏、米国の「核の傘」に頼る韓国などの大使ら約20人が立ち会った。質問は受け付けなかった。

 段階的な核軍縮を唱える米国の不参加は既定路線。しかし、国連の下での話し合いに反発し、こうした「演出」をするのは極めて異例という。なぜか。日本の外交筋の見立てはこうだ。

 核兵器使用が違法か合法かを巡り、国際司法裁判所(ICJ)が初めて下した1996年の勧告的意見は、国際法に一般的に反すると指摘しつつ、「国家存亡が懸かる極限状況の自衛目的」ではどちらか判断できないとした。事実上、保有国が核抑止政策を正当化できる余地が残った。だが禁止条約が発効すれば、ICJは「いかなる状況」でも使用は違法だと判断する可能性があると、保有国は真剣に懸念している―。

 「北朝鮮は法を意に介さないだろうが、法順守を求める世論が強い米英仏などでは、一定に核政策に影響し得る」(外交筋)

 米国の「反発」に対し、条約制定を働き掛ける非政府組織(NGO)の「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)は意外にも「歓迎」してみせた。「禁止条約が次々に報じられている」「ヘイリー(大使)がメディアを連れてきてくれたおかげだよ」…。

 欧米メディアが、国連の核軍縮の議論を扱うのはまれ。5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議はほとんど報じられず、今回も事前報道は同様だった。ところが交渉会議の初日はヘイリー大使の会見が呼び水となり、主要メディアがインターネット上で速報。「ニューヨーク・タイムズ」は翌日朝刊で1ページの約4分の1を割き、米国と同盟国政府の「ボイコット」の見出しで報じた。両論併記の記事の中でICANの主張を同紙上で初めて紹介した。

 「米国の反発は、保有国と同盟国が禁止条約の実効性を認識し、心配している証し」とICANのフィン事務局長は言う。市民社会に核禁止への理解を広げ、その力で核兵器に頼る安全保障からの転換を実現する道筋を描く。

 ただ報道は初日以降は減少傾向。市民の関心はまだ「芽」にすぎない。最終日の31日、カナダから観光で国連本部を訪れていたファナル・ガバムさん(32)に会議を知っているかどうか聞いてみた。「核兵器のバン(禁止)?。トランプ大統領のトラベル・バン(入国禁止令)なら分かるけど」

(2017年4月6日朝刊掲載)

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