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核なき世界への鍵

[核なき世界への鍵] 広がれ 希望のリツイート

 ことし、人類は、この地球上から核兵器をなくす道筋を描けるかもしれない。「核兵器禁止条約」をつくるための多国間の交渉会議が3月、米ニューヨークで始まる。広島・長崎の被爆から72年。「あの惨禍を繰り返してはならない」という被爆者の一貫した訴えに、ようやく国際社会が応えようとしている。インターネット上でも関心が集まり始めた。核なき世界につながる扉の鍵を手にできるのか。正念場の年となる。(水川恭輔)

3月から国連で「核兵器禁止条約」交渉

軍縮停滞への不満 背景

 会議は3月27~31日と6月15日~7月7日にある。昨年10月の国連総会第1委員会(軍縮)で、交渉開始の決議案を123カ国の賛成で採択。12月の総会でも賛成多数で決議され、道が開かれた。

 条約の内容は、核兵器の生産、使用、保有など全てを認めない考えや、使用禁止を先行する考えなどがあり、会議で詰めることになる。秋に始まる次の国連総会での条約採択を経て、各国の署名、批准を目指すとみられる。

 条約交渉への端緒は2010年。戦地で中立の立場から救援を担う赤十字国際委員会(ICRC)総裁が4月に広島の被害の非人道性などに触れ「核兵器のいかなる使用も国際人道法に反する疑いが強い」と声明で発し、けん引役となってきた。

 同5月、各国が5年に1度核軍縮策を話し合う核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書は核兵器の非人道性を記し、禁止条約に初めて言及。非人道性に関する3度の国際会議を経て昨年、核軍縮の進展を目指す国連作業部会が開かれ、決議につながった。

 背景には、NPTが義務付ける核軍縮交渉が停滞している現実に対する非保有国の不満がある。

 16年1月の推計で世界の核兵器は約1万5千発。しかし第1委では、米ロなどの核保有国や北大西洋条約機構(NATO)諸国を中心に38カ国が決議案に「国際安全保障体制に悪影響」などと反対。非保有国と対立を深めている。米国のトランプ次期大統領は昨年末、「核戦力強化」を示唆した。

 被爆国でありながら、米国が差し出す「核の傘」に依存する日本も反対側に名を連ねた。真意はどこにあるのか。被爆国の非核外交も、岐路にある。

平和首長会議 小溝事務総長に聞く

「橋渡し役」として知恵絞れ

 平和首長会議(会長・松井一実広島市長)の小溝泰義事務総長に、核兵器禁止条約の交渉が始まる意義や展望を聞いた。

 後戻りせずに核兵器廃絶を進めさせるため、法的禁止は欠かせない。戦争でなくても誤算や事故、テロで核兵器が使われる危険性の高さが分かってきた。交渉開始は遅いぐらいだ。

 成否は、安全保障を核抑止に頼る国が条約に加わるかどうかにかかる。ある程度加われば、保有国や他の「核の傘」の下の国に政策転換を迫るインパクトがある。「橋渡し役」を掲げる日本は保有国の代弁をするだけでなく、非保有国が抱く切迫感を保有国に伝え、双方が少しでも折り合える条約になるよう知恵を出すべきだ。

 米国は強く反発しているが、オバマ大統領が2009年にプラハ演説をし、今に続く「核兵器なき世界」への機運に寄与した面がある。そのオバマ氏の広島訪問を、対立を超えた禁止、廃絶の議論へどう生かせるか、今度は市民社会が問われる。

 国内にも核抑止を正当化する声はあるが、大量殺害兵器を振りかざし合う「脅しの平和」が持続的な安全保障に有益なわけがない。平和首長会議は交渉会議が、各国が対話、信頼醸成の外交を追求する好機にもなるよう働き掛けたい。

日本の「反対」に疑問符 渡辺謙さんのつぶやき 反響呼ぶ

 「核の恐ろしさを体験したこの国はどこへ行こうとしているのか」。俳優の渡辺謙さん(57)が、核兵器禁止条約の交渉決議案に反対した日本政府を短文投稿サイト「ツイッター」で批判し、反響を呼んでいる。賛意を示す「いいね」と、リツイート(転載)は各1万5千件に迫る。

 映画「GODZILLA ゴジラ」(2014年公開)に、父親が広島で被爆したという科学者役で出演した渡辺さん。国連総会第1委員会(軍縮)での採決結果が報じられた昨年10月28日につぶやいた。「勇気ある発言」などと賛同意見が相次いだ一方、米国が差し出す「核の傘」を支持する立場からの反論もあった。「どうやって中国や北朝鮮を抑制する?」

 広島の被爆者団体は、渡辺さんの発信に賛同し、禁止条約への関心の拡大を期待する。「全面的に同感。立場を超え、みんなが核兵器をなくそうと声を上げるんが大事よ」と広島県被団協の坪井直理事長(91)。もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(72)も「まさに私たちの言いたいこと。被爆地の市民も禁止条約にもっと関心を持ってほしい」と訴える。

■日本政府が核兵器禁止条約の交渉開始決議案に反対した理由(16年10月28日の岸田文雄外相記者会見から)

 具体的、実践的措置を積み重ね、核兵器のない世界を目指すという日本政府の立場に合致しない。北朝鮮の核ミサイル開発への深刻化などに直面する中、核兵器保有国と非保有国との対立を助長し、亀裂を深める。交渉が始まるならば、両者の協力を重視する立場から、主張すべきことは主張したい。保有国も協力しなければ、具体的な結果をつくりあげることはできない。

(2017年1月5日朝刊掲載)

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