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75年 非核の願い不変 広島平和宣言「市民や国家が連帯を」 禁止条約の批准迫る

コロナ禍 式典参列制限

 広島に米軍が原爆を落として75年となった6日、広島市は原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)を中区の平和記念公園で営んだ。松井一実市長は平和宣言で、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現には、市民や国家の「連帯」が必要と強調。日本政府を含む各国に核兵器禁止条約への署名・批准を強く求めた。新型コロナウイルスの感染を予防するとして、式典は異例の小規模での開催。市民たちはそれぞれの場所で、非人道的兵器に奪われた命を悼んだ。(久保田剛)

 安倍晋三首相や83カ国と欧州連合(EU)の海外来賓、被爆者団体の代表たち計785人が参列。このうち都道府県の遺族代表は過去最少の23人だった。式典での密集や密接を避けるため、会場の入場規制で範囲や時間を拡大したほか、参列者席は例年の1割以下に減らして前後左右を2メートル空けた。一般席や全国から平和学習で訪れる小中学生たちの席は設けなかった。

 松井市長は平和宣言で、13歳で被爆した加良健治さん(88)=西区=が見た惨状と「自分のこと、自国のことばかり考えるから争いになる」との訴えを引いた。昨年10月に亡くなった元国連難民高等弁務官の緒方貞子氏の「自分の国だけの平和はありえない」との言葉も紹介し、台頭する自国第一主義をけん制した。

 その上で「75年間は草木も生えぬ」と言われた広島の復興は、先人が困難を前に連帯した成果と指摘。広島には核兵器廃絶に向けた連帯を「市民社会の総意」として広げる責務があるとし、各国の指導者には核兵器に頼らない安全保障体制の構築を求めた。日本政府には、被爆者の思いを受け止めて核兵器禁止条約を締約するよう明確に迫った。

 被爆後に降った「黒い雨」では「降雨地域拡大へ政治判断を強く求める」と主張した。区域外で放射性物質を含んだ雨に遭い、健康被害を訴える原告84人全員に被爆者健康手帳の交付を命じた7月29日の広島地裁判決を踏まえた。

 安倍首相はあいさつで、非核三原則の堅持や核兵器のない世界の実現には触れたが、核兵器禁止条約には言及しなかった。国連のグテレス事務総長はビデオメッセージで「核兵器禁止条約は軍縮体制のさらなる柱であり、その発効を心待ちにしている」と説いた。

 式典は午前8時に始まった。松井市長と遺族代表2人の計3人が、この1年間に死亡が確認された4943人の名前を書いた原爆死没者名簿を、原爆慰霊碑の石室に納めた。名簿は2冊増えて119冊、計32万4129人分となった。

 原爆投下時刻の8時15分には、遺族代表の松木俊伸さん(46)=南区、こども代表の畑賀小6年竹宮未菜海さん(11)=安芸区=が「平和の鐘」を突き、全員で1分間の黙とうをした。「平和の誓い」は、こども代表の矢野南小6年大森駿佑君(12)=安芸区=と安北小6年長倉菜摘さん(12)=安佐南区=が読み上げた。

 「ひろしま平和の歌」は大規模な合唱と吹奏楽演奏を中止し、高校生3人の合唱とした。伴奏には初めて被爆ピアノを使い、昨年の中国ユース音楽コンクール・ピアノ部門(中国新聞社など主催)の高校生の部最優秀賞の平賀小雪さん(17)=基町高3年=が奏でた。

平和宣言の骨子

■「75年間は草木も生えぬ」と言われた広島は復興を遂げ、平和を象徴する都市になった。新型コロナウイルスという人類への新たな脅威を乗り越えるため、悲惨な過去の経験を反面教師に、市民社会が「連帯」しなければならない
■当時13歳の被爆者、ローマ教皇フランシスコ、難民対策に力を注いだ元国連難民高等弁務官の故緒方貞子さんの言葉からも、「連帯」して人類の脅威に立ち向かうべきだとの示唆が浮かぶ
■今の広島があるのは先人が「連帯」して苦難に立ち向かった成果。これからは核兵器廃絶と世界恒久平和の実現へ「連帯」を市民社会の総意にしていく責務がある
■核拡散防止条約(NPT)と核兵器禁止条約は核兵器廃絶に不可欠で、次世代に継続すべきだ。世界の為政者は、この枠組みを有効に機能させる決意を固める必要がある
■日本政府は、核兵器禁止条約への署名・批准を求める被爆者の思いを受け止め、締約国になり、唯一の戦争被爆国として世界に「連帯」を訴えてほしい。「黒い雨降雨地域」の拡大へ、政治判断を強く求める

(2020年8月7日朝刊掲載)

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